朝露が輝く早朝のことだ。
彼は寝床を抜け出し、近くの森の中へ足を運んだ。
空は程よく雲が見えるが、快晴といえるほどだ。
濃厚な緑の香る空気をめいっぱいに吸い込むと、すっと眼を細める。


そしてゆっくりと人差し指を宙に向けた。
第二関節から先が金属質の光沢を持ち、傍目から見ても鈍い輝きを放つモノへ変容する。
指先からぐにょりと水銀が宙を走るように動くと、球体を模った。

球体は伸ばした指の先に停滞し、真球のまま沈黙。
しばしの時間を経て表面に波紋を見せると、ゆっくりと形を変えていく。


今回は鳥のようだ。
見るものが見れば分かるであろうが、雀を模している。
細部は細かく表現されており、彩色は無いものの微細な凹凸を用いて外見を見事に表現していた。
５分ほど形を保った後は犬へ。
犬から真球へ。そこから猫へ。
猫から真球へ。そこから虎へ。
虎から真球へ。そこから龍へ。
龍から真球へ。そこから元の指へ。


変形はスムーズであり、日頃の訓練の成果が出ていると十二分に良く分かる。
事実、彼はこれを日々の一端で欠かしたことは無い。
寝る前でも、起きてすぐでも。
時間帯は様々でも一日一回以上は必ずやっていた。



それは、この世界に来てからも変わらない。
自分の性質を、自分自身を理解しつくすために必要だからだ。

己は玉鋼。
打ち鍛えられたひとつの金属。
金属の特徴である特徴を失い、特性を得ている異端であると。

「おはよー！　クロさん早いねー」
「トーコか。おはようさん。
　今日は当番じゃったか？」
「萌さんもだけどね！　じゃ、またあとで！」

朝の鍛錬を済ませると、桃子と会った。
このグループは主に食事係がオフィリィと萌なのだが、たまに早起きをした者が率先して手伝っている。
男連中は専ら力仕事なのだが、体力が余っているせいか早い者勝ちのような感じになっていた。
桃子が向かっていく先を見れば、萌とアズの２人が朝食の用意をしている。

どうやら他のメンバーも起きている様で、それぞれ荷物の整理やテント等の片付けをしている。
クロは最低限、自分の物だけは済ませていたが…
今日は少々集中しすぎていたようだった。


それが先日。


今日は道を外れてしまい、クロを含めた４人は何故か平原に居る。
しかも目の前には、真っ黒い鎧を着た兵士。

…暑くないのだろうか、と割と本気で心配してしまう。


だが、口上を聞いた後にはそんな気持ちは吹っ飛んでいた。
どうやら…悪政の王の僕であるようだ。

ならば、遠慮は要るまい。





こんな雑魚にかまっている暇など、無いのだから。