護りの森と呼ばれているこのエリアもずいぶんと深くまで来た。
現れる魔物やエンブリオも強くなる一方だ。
装備も少しずつ強化していく必要があるだろう。

……それはそうと何となく感じる程度だが、奥からは妙な気配がする。
色でいえば黒っぽいイメージだろうか。
周囲を塗りつぶす印象のする何かが待ち構えているような気配だ。
勘や確信といった感覚とは毛色が違う。
どうやら俺の本能らしきものがそう察知しているようだ。

ちょい前から——あの陰気な地下牢のうさんくさい司祭と出会う直前あたりから、ちょくちょくこんな違和感を感じ取ることがある。
まあ最近はエンブリオとやたら契約してるからその影響（もう少し前向きに捉えれば恩恵）だとは思うが、さて。
今のところ害のあるもんでもないからいいが、なんというべきか。
俺たち一揆衆がだんだんと人間離れしてきている気がするのは俺だけだろうか。

言いながらブラスターに乗せた籠からいくつかの果実を選り出す。
服の袖で大雑把に磨くと、よく実ったそれらを二人に向けて放った。

外套の襟を合わせながら前に出た。

そう言って、担いでいた銛を軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。