冒険の書　3日目

「やっべえぇぇええええ止まんねええぇぇぇえええッ！！！！」

絶叫と共に圧倒的な質量が迫ってくる。
回避を、と脳裏に過ぎるけれど身体の反応が思考に追いついてこない。レベルダウンの影響は想像以上に深刻だった。
無意識に舌打ちし、咄嗟に剣を盾代わりにするも、衝撃のほとんどが抜けてくる。
まずい……とてもじゃないけど長く持つ気がしない。
間違いなく格上の相手だ。
出来るだけの全力でまずは一体倒しきるべきだ。

シェイドが新たに覚醒した力を使って押し切る——

突撃の態勢に入った俺の機先を制するように朗々とした声が場に響く。

「大地より産みし魔の鉄槌を受けよ・・・ 」

詠唱！？

驚く間もなく、魔力で固められた石飛礫の直撃を受けて吹き飛ばされ、体力が根こそぎ持っていかれる。

まさか、向こうも俺に集中砲火をかける気なのか？

疑念が浮かぶけど、それならなおさらやられる前にやる以外に道はない。

手の中にある剣の重さをその存在を強く意識する。
逆境ならいくつも経験してきた。無敗だったなんておこがましいことも言いはしない。
ただ、動ける限りは諦めることだけはありえないんだ。


そのまま押し切られてしまい、ノックスと揃って地面に倒れ伏す。
悔しいけれど、地力が足りなかった。おそらく装備も不十分だ。
まったく世知辛いね。

水辺に向かうというノックスと別れて、進路を平原へと取る。
なんでも狼の”エンブリオ”が物理職には有効だという話を耳にしたからだ。
道中で同い年くらいの陽気な少年、シャルと
頭の寂しくなった筋肉だｒ…巨漢、リンと合流。


挨拶もそこそこに歩みを進めていくと、眼前には庭園が姿を現していた。
更にその先には黒い人影が見える。

漆黒の鎧を纏う男たちは兜の隙間から覗く口元を愉快気に歪めた。

「ふふ、来たか馬鹿どもめ・・・」

愉悦の滲む声を漏らして、構える武器をこちらへと向けてきた。

「即刻立ち去るがいい！世界に害をなす虫けらめッ！！」

抑えきれない高揚がその姿にはある。
おそらくだけど、実際に背を向けて立ち去ろうものなら、背後からでもその刃を掲げて襲ってくるだろう。

「ふーん、僕に挑むんだね。
　僕の速さについてこられるかな？」

殺気立つ兵士を見てもなお気負う様子無くシャルが笑う。
リンは無言のまま拳を構えた。

狼に会いに来たっていうのに何をやってるんだろうと思わなくもないけれど……
仕方ない。
背の大剣を抜き放って、兵士を見据える。
降りかかる火の粉を払わない選択肢はないからね。