朝日で目を覚ました。

頭がガンガンする。強打したらしい。
ゆっくりと周りを見渡してみる。
何もない原っぱ。
しかしここは、昨日まではネクターの花畑だった。

思い出した。夜中に新王の部下がやって来て、ネクターを根こそぎ奪っていったのだった。

メープルは目の前で毟られていくネクターを守ろうと弓を引いた。
自分の生まれた世界では巨大な虫との戦闘がたびたびあったのだが、
そういえばメルンテーゼでの戦闘は初めてだった。10歳の時に来たから、9年ぶりか。
そのような状態で新王の元で鍛えぬかれた新鋭に勝てるはずもなかった。
決着は一瞬だった。メープルは魔法で吹き飛ばされ、気を失った。

この世界の唯一の友達であるエンブリオの名前を呼ぶ。

言うや否や、メープルは立ち上がり、歩み始めた。

しばらく歩いて着いた先は、花の街エクラタンだ。
メープルは人里離れたところに住んでいたが、たまにこの街まで買い物に来ることがあった。
エクラタンは、美し街だ。
色とりどりの花に囲まれた風景は、どこか故郷を思わせる。

だが、久しぶりに来てみると、街の外の広大な花畑は踏み荒らされ、今は見る影もない。
街の内部も相当な被害を受けているらしい。
ネクターが見当たらないことからも、新王のネクターの強奪に抵抗した結果だということは明らかであった。

一通り街を見ると、早足に歩き出した。

世界の現状を打開する妙案なんて何もなかったが、少女は王城に向かって歩く。

彼女は民衆による大規模な一揆が起ころうとしていることを、このときはまだ知らないでいた。

そう呟いた少女は、貴方を見た途端眼を奪われたかのように足を止めて、眼を瞠って、ぼんやりと。

相手のあまりの可愛さに動転しているのか。元より口下手であるが、更に悪化している。おろおろと、一人で眼を回しそうにもなっていて。