○月××日　晴れ　　＜メルンテーゼに来てから２日目＞


・王城の前には沢山の人がいた
ヒトもいたし、獣人もいたし、あと動物と、よくわからない生き物もいた。
みんな一揆に参加する人たちみたい。
折角だから、色んな人とお話してみたいな。

・ラルフさんとのバトルに勝った
体格差で勝てないんじゃないかって思ってたから、勝てて良かった。
わたしと戦う前に、既に他の一揆参加者と戦ったんだと思う。
それに、わたしと戦った後も沢山の人と戦わなくちゃいけないみたいだった。
ラルフさん、大丈夫だったかな。
一緒にいたルリアンナさんは親切で元気なお姉さんだった。
けど、ある意味ちょっと怖い人かもしれない。
それにしても、ラルフさんのタックルはなかなかのものだった。

・一緒に行動する人が出来た
王城の近くの町で買い物をしている時に手間取ってしまい、店主のおじさんに「仕方ねえなぁ」みたいな苦い顔をされてしまった。
その時に、助けてくれた人が居た。
凄く背の高い男の人。ヴァルトという名前らしい。
折角だからパーティを組みませんかって思い切って言ってみたら、快く承諾してくれた。
彼は記憶喪失で、憶えているのは自分の名前ぐらいだそうだ。
一揆に参加している間に、記憶を取り戻せるといいのだけれど。



…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…　…

カーテンの隙間から零れる薄明りで目を覚ます。視界に映ったのは、見慣れた部屋の天井ではなかった。
（…ああ、そうだ）
此処は島じゃない。とある街の、宿屋の一室だ。
わたしはメルンテーゼに来たのだ。

「……っ！？」

立ち上がろうとした瞬間、左足に鋭い痛みを感じて、わたしは反射的にその場に座り込んだ。

「……きゅぃ？」
「あ、…起こしちゃったか……ごめんね」

傍らで寝息を立てていたエンブリオのアポルが、眠たそうに頭をもたげた。わたしの声で目が覚めてしまったらしい。
鋭い痛みは一瞬だけで、すぐに治まった。
わたしは慎重に立ち上がって布団の上に座り直す。

それから目を閉じて、昨日のことを思い出してみる。
赤毛のルリアンナという溌剌とした女性と、ラルフという熊のような外見の男性。
ネクターを預けるかどうか試すと言われて、わたしはラルフさんと試合をしたのだ。
足はたぶん、彼のタックルを避けようとした時に挫きでもしたのだろう。
どうにか勝つことが出来たけれど。あれ、負けていたらどうなっていたのかな。

軽く伸びをして、わたしは再び背中から布団へと倒れる。
空はまだ瑠璃色に染まっている。どうやら夜明け前らしい。
起きようと思ったけれど、やっぱりやめた。もう少し寝ていよう。
陽が昇るまで、まだ時間があるようだから。

ヴァルトはそこで言葉を切ると、アマリアの頭をそっと撫でた。