■Area：王城前

呪詛の刃がのたうち、隻眼の男の脚を貫く。
仰向けに倒れた男が立ち上がると拍手をした。
合格の合図。

ミチエはつまらなそうに鼻を鳴らすと近くの岩に腰を下ろした。
隻眼の男は倒れては立ち上がり、闘い続けている。

一揆参加のための腕試し。
ずらりと並んだ参加希望者たちが次々と試験をクリアしていく。
その数は10人や100人ではない。

「呆れたタフさだな。人間か、本当に？」

うんざりしたように呟く。
その様子を眺めていた者の大半の感想がそれだろう。
ラルフの強さ自体は大したことはない。
勿論、本気を出していないだけということもあるだろうが
エンブリオ契約者にとっては取るに足らない程度だった。
その恐るべきタフネスを除いて。

エンブリオの力、だろうか。
メルンテーゼには多種多様なエンブリオが棲息している。
ネクターを介して他者と契約可能な存在を総括して
エンブリオと呼称しているだけで、その分類も法則も
まだなにも確立されていない。謎の多い存在。
メルンテーゼの人々はよくわからないままにその力を享受してきた。
便利な力を使えれば、それでいいのだ。
勿論、学者達によって研究はされているものの、あまり成果は上がっていない。


参加者には割り振られた番号がある。
その順で腕試しは行われている。
ミチエの主であるデリフィーンたちも、薄汚い野良犬のような男たちも遥か後方。
それまでの間、見物しているにはあまりに冗長な見せ物に過ぎた。
ミチエは既に自分の順番待ちの間で十分、飽き飽きしていた。

既に腕試しを終えた男達の元へと歩いて行く。
この一揆を共に戦う部下であり、仲間となる男達だ。
木陰を、風が揺らす。生暖かな熱風。

削り出した鋼のような巨躯が腕組みをしている。
異様に長い白い髪だけが風に戦ぎ、揺れている。
その様はどこか不吉だ。死神のようだと言う者もいるだろう。
その厳めしい強面からは何を考えているか読み取れそうにない。

リドレー・F・エルディンゲルト

異世界からの迷い人。
過去については口を噤むが、戦う人間であることだけは確かだった。
とある寒村で農民たちの用心棒のような事をしていたところを
王都への道程の途中で立ち寄ったミチエ達と出会い
その腕前と知識を見込んで雇われることになった。

それまでの道程で彼女達の戦力であるリント領自警団の兵士たちは
魔物との戦いで命を落とし、あるいは負傷や病により多くが脱落しており
その補充は急務だった。
彼ならばその穴を埋めて余りあると判断されたのであった。
尤も、デリフィーンとしてはその農業知識の方が主目的であり
ついでに頑健な兵力もついてくるお得な物件ぐらいの認識であろう。


「……。」

寡黙な男だった。
そしてその隣の男は口数の多い、騒がしい男だった。

着流しの男の義足を見やる

グリゴリは露骨に舌打ちをし、ガシガシと乱暴に頭を掻きながら女のほうに向き合った

しばし相手を値踏みするように見る。
全て知った上で茶化しているのかとも思ったが、記憶の中の彼女は、そこまで意地の悪い女ではなかった。

進攻方向からイヨルが歩いてくる

味方側の面々を見渡す

相手に向かって、ひらひらと軽く手を振る。