この世界に流れ着いてから、鬼火がひとつ、現れるようになった。
深い色に燃える、柔らかなともしび。淡いぬくもり。
ふと視界から消えたかと思うと、またいつの間にか現れる。
それがなんなのか、思い立ってルリアンナに尋ねてみた。
すると、彼女はそれをウィスプと呼んだ。エンブリオだと。
私はこの世界にも、その理にも疎いから、彼女がそう言うなら、そうなのだろうと思うことにする。

ウィスプ。
私の傍にまといつくその鬼火は、どことなく、故郷の夕暮れの色を思い出させる。
日が沈みきったあと、ほんのかすかな紅を含んだ地平線の藍。
あの長い長い黄昏の終わりの色。
それはかあさんが倒れていた日、場違いなほど綺麗だった、夕日の最後のひとかけらにも似て。
懐かしい空の色を映して、ウィスプは静かに灯っている。

声を掛けても、ほんのりとした光が濃く淡く揺れるだけだ。
物言いたげに見えることもあるけれど、言葉を話したりはしない。
けれどその控えめな在り方は、居心地がよかった。
いとおしい残照の似姿は、故郷の水の匂いや、風のささやきを思い出すよすがになっている。
どうせ一揆にはエンブリオとの契約が必要だというし、この鬼火とはしばらく付き合うことになりそうだ。