２日目

「どうなってんだ、こりゃあ……」

　倒れたままのラルフを余所に秋月は自分の脚を見下ろす。
　今しがたラルフをゴムボールのように蹴り飛ばした脚力。
　秋月自身、自分がごく普通の人間だと自覚している。

　だが、これは明らかに常軌を逸している。

　ラルフとルリアンナがこだわった理由。それを身を持って思い知ってそこでようやく、
　ラルフに手を貸すことに思考がいたり慌てて駆け寄った。

自分の肩に乗り、その言葉に首をかしげる様を見て秋月は頭を掻きむしる。

メルンテーゼに迷い込む前、自分が住んでいた町のことを思い出す。
バイオハザードが発生し生ける屍の巣窟となった街は隔離される中、
それでもクマやサメ、人為的に手が加えられたゾンビと言うイレギュラーを除けば
後は特異な能力を持たない人の徒党か、群れを成すゾンビ。
ゾンビという脅威は、襲われ感染を防ぐことを念頭におけば知性もなく対処もしやすかった。

だがこの世界は違う。全てが未知数で経験が通用しない。
同じエンブリオというカテゴリでもおそらく能力や性質は多種多様に渡り、
未確認のエンブリオ、またそれと契約した敵性勢力が現れれば常識に囚われる方が命取りとなる。
ラルフをたやすく蹴り飛ばしたこの脚力さえも全体で見れば矮小な部類かもしれない。

……でも、頑張らねえとな。

ゾンビが蔓延る街で秋月が生き残れたのは、この世界にいるような特異な能力の持ち主だからではない。
ただ、彼を助けてくれた、助け合って生き残ることをあきらめなかった多くの人がいたから。

何処にいるかもわからない同胞を思い返し自分の頬を両手で貼る秋月を、アニマは光を讃えた瞳でじっと見つめていた。

不時着したヘリがある森を進み、目的地にたどり着いたとき、秋月はその違和感に最初気づかなかった。

目の前に広がっていた光景。
そこにあるはずのヘリがなく、丁寧に分解された外装やネジが整頓して並べられており、
配管や機器がむき出しになった本体に老人が手を伸ばし手際よく分解しているものだった。

年甲斐もなくその場に座り込みうなだれる秋月。
その心中を知ってか知らずかアニマがその頭に飛び乗り老人に向かって首をかしげる。

秋月の様子を見て声を漏らし、彼のほうへ向きなおると手の平を打ち合わせて埃を払う。

言葉を遮り、手だけを上げて左右に振り応えを示す秋月にノームは目を見開く。

だろうがよ。
そりゃ王を打倒するエンブリオもいるんだろうさ。でもな。

うなだれていた頭を上げて、秋月はノームの目を見返した。

難度も頷く仕草の後に大きく頭を振ると、ノームは秋月の側に歩み寄り、手を差し伸べる。

未だ手を差し伸べられたままのノームの手に、秋月は手を伸ばし、しっかりと握り返す。

話しかけられた人物は、どうやら自分、らしい。
それを確認するように、自分のほうを指差し首を捻る。
随分と年上である彼へと向き直る少女は、…表情は、少し、暗く。
やや申し訳なさそうに瞳を閉じれば、頭を下げた。

　#’’）ノシ　　　三ー(： ゜д゜)→ギャー

はやとは　おっさんを　みつけた！
　行動
　ニア話しかける

少女は抑揚もなく、表情も動かさずに挨拶をした。
その瞳からは何も伺えない。
一見徒手空拳にも見え、体つきも細く戦えるようには見えない。