きらりと指輪が光っていた。
暗がりの色に。大地の色に。あるいは、まだ見知らぬ色に。


＊　＊　＊


遠くを見る。色鮮やかな花々が咲き誇る、庭園を眺める。
一揆に参加するための手続き（という名の力試し）を終え、
これから足を踏み入れる道の傍らに、その姿はあった。

ぼんやりと、どこか靄がかかった意識を正すように頭を振る。
今に始まったことではないが、男の物事の時系列の認識はよく狂った。
今日昨日の話ですら、既にちぐはぐな断片となって宙に浮いている。
此処に来てからの一連を、ゆっくりと、順番に思い出してみた。

メルンテーゼに降り立ち、
あちこち適当に歩き回り、
おいしいごはんで腹を満たし、
ラルフという男と軽くやり合い、
おっとりした彼女に出会って、
一揆のために庭へと出ていく。

そうだ。
頷く。
これこそが正解だ。

人の世では、こういう現象を“ボケる”というらしい。
その言葉を忘れ得ぬよう胸刻み、男は記憶の認識を改めた。


＊　＊　＊


さて。
楽園を目指してゆけば、不思議と、よいものに巡り合う気がする。
何にせよ——付いていくと決めたのだから、行かねばならない。

（男が右手を軽く振ると、それは見る間に異形のものへと変わっていく。
　前腕の半ばから歪に大きくなったその先、黒く鋭い爪がぎらりと光った）

呼びかけに応えるように、エンブリオがくるくると舞う。

少女の持つ羽根ペンに留まると、エンブリオの姿は溶け、ペン先に色が宿った。