腕試しは合格のようだった。
　ラルフとルリアンナからの言葉に、流されるままに頷いてしまった。
　認めてもらえたのは、幸か不幸か。

　おれには元の世界の記憶がある。

　一揆の参戦者は2000人にも上るらしい（きっとこれからも増えるだろう）。
　その中にはおれのように別の世界から飛ばされてきたひとも居るようで、
　記憶を失い、自分の名前さえ忘れてしまっている者も居ると聞いた。

　……記憶が残っているのって、幸せなことなんだろうか。
　自分が自分でなかったら、もう少し勇敢に戦えたかもしれないな、と思う。

　……記憶が残っているのって、幸せなことなんだろうか。
　自分が自分でなかったら、もう少し勇敢に戦えたかもしれないな、と思う。

　メルンテーゼに来て、久しぶりに夢を見た気がする。
　確かな記憶を元にした繰り返し。続く言葉も明確に覚えていた。
　おれの方が幾分か年上だって言うのに、ひどい言われようだった。しかも否定できない。

　それでも、今のおれにはちょっとだけ、
　ほんの少しだけ、エルダの言葉を否定する権利があるはずだ。

　エルダが一緒に居たのなら良かったのにな。

　契約したエンブリオはエルダの形をしているけれど、
　所々もやもやしているし、喋らないし、エルダとはかけ離れたいきものだ。

　もしも元の世界に戻ることが出来て、エルダを見つけて、

　なんて言ったところで、きっと信じてもらえやしないだろう。かなしい。
　でも、おれがエルダでも信じられないと思う。
　

　ああ、それにしても腹が減った。
　財布には石しか入ってない。

　何か食べたいし、でも金はかけたくないし、なんか良いものないかなあ。
　狩り　は向かない。熊なんか出たら無い尻尾を巻いて逃げてくることになる。
　行ったところで食料になるのはおれの方だっていうのも決まってる。

　あー　　　　　　／＼／＼＿＿＿
　　　　＼＿＿／　　　　　　　　　　も
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　お
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おお　どうしよ〜〜〜〜〜

　（ぐちゃぐちゃと線が引かれている）

　釣りなんかしたことないけど、きっとなんとかなるよな。
　歩き回ってるうちに水辺も見つけられるはずだ。



　あとは、そうだ。

　おれみたいに別の世界から来たってひとを探しておきたい。
　記憶があっても、無くても、
　似てる状況に置かれたひとが居るっていうのは、心強さが全然違うからな。

そう言って少女はぺこりと頭を下げた。
そして、再び頭を上げる途中でぴたりと動作が止まった。

いきなり話がぶっ飛んだ。しかし、少女はきらきらと目を輝かせてこちらを見ている。
少女の近くに浮いているエンブリオはとても申し訳なさそうな顔をしていた。