第二話「合流」


王城の郊外にある、遠目からでもよく目立つ一本の大木。
待ち合わせに指定したその場所で、雪枝は待ち人が訪れるのを、のんびりと待っていた。

「支給品、といえば聞こえはいいけど……」

時折周辺をぐるりと見渡しながら、手渡された鉱物を弄ぶ。
ラルフとルリアンナによる適性試験が終わってから、おおよそ半刻。
別れた時間から考えると、他のメンバーもそろそろ試験を終えて、戻ってくるはず……
自然と、待ち人を継がすために周囲を見渡す頻度も増えていた。

「何度見ても『その辺にあった石ころを持って来ました』って風にしか見えないのよね……」

手に持った鉱物を陽の光にかざし見ながら、一人つぶやく。
これは、ルリアンナと名乗る女性からからネクターを譲り受けた際に、支給品として渡されたものである。

ラルフとルリアンナによる試験は、想像以上にあっけなく終わってしまった。
個人戦が苦手な雪枝としてはありがたい話ではあったが(ここで雪枝だけ躓いてしまっては元も子もないからだ)、それは逆に『対個人戦が苦手な人間でも簡単にパスできる試験』という意味でもある。
これから強大な敵に立ち向かうという勢力としては、試験が適当すぎるのではないか、というのが雪枝の抱いた感想であった。

「コレで必要な物を作れ、って話だったけど、こんなものでどうやって作れっていうのかしら…？」

もう一つの支給品——名前と見た目から、何かの木材と思われる——を取り出し、見比べる。
木材と思しきものはとにかくとしても、鉱物に関しては、どこか適当な鉱山にでも入れば簡単に見つかりそうなありふれた鉱石にしか見えない。
新しく仲間に加わった人間にいきなり高価なものを渡すというのも考えにくく、きっと家の裏山でとれた木材や鉱物なのだろう、と雪枝は思っていた。
もしかしたらそれなりの人物に見せれば希少な素材だとわかるのかもしれないが、そのためにわざわざ鑑定士を探すのも手間である。

それにしても、たったこれだけの素材で武器や防具、ましてや衣服を作れというのも、それはそれで無理がないか、と雪枝は思う。
そもそも、雪枝達には武具を作るだけの設備もなければ知識もないのだ。

「……無理だよなあ」

何度考えても、そうとしか思えなかった。
足りないものが多すぎる、というのが雪枝の導き出した答え。
屋敷に戻ればいくらでも手のうちようにあるのかもしれないが、そもそも今は実質的には勘当されている身である。
そう気軽に頼れるものでもなく、結果的には街の工房に持ち込むのが現実的な回答であった。

「ま、今考えても仕方ないか。」

しかし、この問題については今考えた所で、何かが変わることもなければできることがあるわけでもなかった。
雪枝は一度この問題を頭の隅へと追いやり、強引に思考を切り替える。

「……それにしても。」

雪枝が、これらの支給品を「ありふれた素材」と推測している、もうひとつの理由。

「ラルフ鉱にルリアンナ材って、もうちょっと名前の考えようはあったんじゃないかなあ……」

それは、これらの素材に付けられた名前だった。


−◇−


雪枝が待ち合わせにこの場所を指定したのには、確とした理由がある。
それはこの場所が、遠目からも目立つということ。
遠くからでも目立つ場所というのは、合流地点としてはうってつけである。

「…ん、あれは……」

もう何度目かわからない周辺確認を行なっていると、遠くにこの場所に向かって歩いてくる人影を二つ、見つけた。
よく目を凝らしてみると、その人影は見覚えのあるエプロンドレスを着ていた。

「……あれ、どこかで合流したのかな…？」

その様子を見て、雪枝は小さく首を傾げた。
試験は別々で受けることになっているから、ばらばらに集まることになるだろう、と思っていたためである。
とは言っても、バラバラに集まろうが一緒にこの場所に雇用が大きな違いはない。
せいぜいで、雪枝が寂しい思いをする時間が少し、増えるだけだ。

「ま、いっか。」

雪枝もそれ以上深く考えようとはせず、ぢ異聞大きくなってきた人影に向かって、合図をするように手を振り始めたのであった

実は姉が合成を担当するのが不安な雪枝なのでした。
主に爆発的な意味で。