お人形君に気のない返事を返しながら、大勢の人が歩く平原を黙々と歩く。
　ずいぶん前にも似たようなことがあったけれど、その時と違うのは私がもうこの流れに身を任せてしまおうと覚悟を決めていることだった。人が大勢居る方向に進んでおけば間違いない。それって観光客の鉄則だ。
　私がずいぶん落ち着いているからか、お人形君も今日は静かだ。むしろ、元々この世界の住人であるはずのお人形君にこそ道程やら目的やらを教えてもらいたいのだけど、お人形君は黙って私についてくるだけで何も教えてくれない。
　……なんかそれって理不尽な気がしてきたりして。

　一人ならともかく、連れが居るのに淡々と歩いていることが段々苦痛になってきて、私は耐えきれずにそう切り出していた。歩いている最中に声をかけられただけの連れなのに、なんだか一緒に冒険しているみたいだ。
　私の言葉に、お人形君は変わらない表情で、「うーん」と唸った。
　なんだか不穏なその空気感に、私はちょっと眉をしかめる。
　こういうの、いやな予感って言うんだよね。

　ほらね。

　何それ？　って思っちゃうよね。
　記憶喪失とか、そういうの？
　なんにしろ、お人形君に案内を期待するのは間違ってるみたい。

　私の問いに、お人形君は足を止めた。表情を変えたりする代わりに、その動作を止めた。そういう仕草に私には思えた。

　なんとなく、そうかもなと思えていたからなんとも思わなかった。
　ふーん、とだけ頷いておく。

　そう声をかけると、お人形君はのたのたと足を前に放り投げる。
　

　言われて、私はちょっと考えてしまった。いくつか候補になりそうな名前が頭に浮かんで、顔に出さないようにそれを吟味する。そうしながら、でも、私は答えを決めていた。お人形君には不満かもしれないけれど。

　お人形君がその目をぱちぱちと開けたり閉じたりした。まぶたが顔にぶつかってカチカチと小さな音を立てた。

　私の言葉に、お人形君は黙り込んでしまった。
　惰性のように足だけは動かしてるけれど、それだけ。
　暇をもてあましてたさっきよりずっと濃密な沈黙の中、お人形君がぽそりといった。

　私はお人形君に返す言葉を持たなかった。
　私とお人形君の足音、大勢の人が向かう喧噪も、私とお人形君の沈黙を通すと、どこか遠い世界の出来事みたいだ。
　先に根負けしたのは、お人形君だった。

@お人形君＠/2/……はるかさん、被扶養者ってなに？

　私は小さく苦笑を漏らして、

　
　とスマート本をバッグから取り出した。

　そうね、そういう約束だもんね。


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　健康保険の被扶養者

　健康保険は、労働者とその被扶養者の業務外の事由による病気や怪我、死亡、出産に対して保険料を支払うことにより給付を行ってくれる保険です。ちなみに、業務上の事由に関しては労災保険でフォローしています。微妙に棲み分けされているんですね。

　健康保険の大きな特徴は、被保険者だけでなくその被扶養者にも保険給付が行われることです。
　ここでは、その被扶養者の範囲について解説していきます。

　まずはおおざっぱな分類です。

・被保険者の直系尊属（被保険者本人の父母、祖父母、曾祖父母のことです。配偶者の尊属は含まれません）
・配偶者（事実婚を含みます）
・子、孫、弟妹

　上のグループは、被保険者と生計維持関係にあれば被扶養者とみなされます
　続いて、下のグループ。

・上記以外の三親等内の親族。
・事実婚の配偶者の父母と子。
・事実婚の配偶者が死んでしまった後の、その父母と子（ここで規定してないと、法律上他人になっちゃうんですね）

　このグループは、生計維持関係だけでなく、住居および家計を共同にしていることが要件とされます。

　また、被扶養者に収入がある場合は、年間収入が１３０万未満であって、以下の条件を満たしていない場合は原則として被扶養者に該当しません。
①同一世帯に属している場合には、被保険者の収入の２分の１未満。
②世帯を同じくしていないときは、収入が被保険者からの援助の額よりも多い。

　結構厳しいですよね、これ。
　ちなみに、認定対象者（ここでは被扶養者に該当するかもしれない人のことです）が６０歳以上、又はだいたい障害等級３級以上くらいの方は、上記を１８０万と読み替えてください。

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　説明を終え、スマートホンを閉じる。
　私の説明を聞いていたのかそうでないのか、お人形君はのろのろと歩を進めるだけだ。
　しょうがないなぁ。

　なんのはなし？　とでも言いたげにお人形君が顔を上げた。

　お人形君の表情が、ぱっと輝いたような気がした。気のせいだってわかってるけれど、さっきまでののろのろのたのたはどこへやら、ぱたぱたと私に駆け寄ると、お人形君は明るい、大きな声で叫んだんだ。

　ふふふ。
　私も思わず笑ってしまう。
　決まったら教えてね。

40cmほどの大きさの人形がとても軽い足音立てながら走ってくる。

スカートを持ち上げて一礼。
笑顔を向けた後に、踊るようにしてくるりと背後へと回り込む。

遅れてやってきたのは、身長は170前後、青髪の耳長。