拝啓、お師匠様。


仮説、にもなっていないというのはわかっています。
仮説の仮説、いえ、架説とでも言うべきでしょうか。

論理が飛躍しすぎていて、橋でも架けなければ繋がっていない。
吊り橋のような、つたない説。
ただ、つたなくても、蔦でさえないような説であっても、考えることは楽しい。

楽しいのは、答えを出さなくていいからなのでしょうね。
答えを出す必要がなければ、いくらでも、都合の良いように考えを展開させていくことができる。

いずれ私も、考えていることに答えを出す必要が出てくるのでしょうか。
答えを出す必要があることを、考えることがあるのでしょうか。
考えて考えて考えて、そこまで考えなければ答えが出ないことがあるのでしょうか。

あるのでしょう。

すぐに答えを出すことがいいわけではないとか、考えこめばいいわけではないとか、そういうレベルではないものと向かい合う時が、いつか私にもあるのでしょうね。

向かい合うといえば、私がこの世界で最初に向かい合ったものについての話をしていませんでした。

エンブリオ。

可能性を秘めた何かであり、可能性そのものでもあるかもしれない何か。
ところで、可能性とは、不可能性も含めての可能性なのでしょうか———

男はゆるりと視線を向けただけで、すぐにまたどこかを向いてしまった。

少女はずいぶん狼狽しているようだ。
その背後では異形の怪物がじっと様子を窺っている。

　　　　　　足元で白い子犬がじゃれている。

一瞬ビクッとして身構える

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。