「うわっ！？え、え、えぇ？？」


「もっと〜〜、強く〜〜、頂点を目指せ〜〜」

鍋から白い湯気が立ち上がる。それを確認すると予め卵を混ぜ合わせたご飯を投入。溶き卵を事前に混ぜているのは米をコーティングさせ一粒一粒パラパラと解れさせて風味が引き立つからだ。
ウチは最初に米を叩き込む派だぜっ。
鍋の表面と常温のそれが焼ける音が部屋に響き渡る。

「私以外の女王はいらない〜〜、全ての郎党根絶やし魔法〜〜」

程良いなと思ったら切った野菜を投入。続けて味覇も大雑把に入れ、手首のスナップを使いながら鍋を揺らす。
そのタイミングに合わせて片手に持ったお玉で切るように混ぜ合わせると、まぁいい感じに米が踊る踊る。
くくくっ、面白い様に踊りおるわ。ほれ、もっと生々しく舞うがよい！

「そうよあの子がマジカル☆アンっ・・・・・・と」

固定された電子音が響くが、ボタンを押す音が聞こえるとその音が止まった。

「お兄ちゃん。でんわよ」
「あ〜ん？誰だよ。男のセールスなら断れ」
「ううん。おとうさん」

はい、と肘辺りまで上げられた子機。
眉根と寄せながら、鍋を揺するの止めキッチンの火を止めると、子機を受け取る。

「あいあい。こちら食べ盛り共配給役の料理係、イカす俺だぜ」
“ラ、ラル？これは何なんだい！？この、えっと、ケイタイ？”

あ？鍋を持ってる様に妹へ目線で合図を送る。嫌そうに膨れても知らねぇ。ほれ。
再度促すと渋々両手で中華鍋の持ち手の部分を持つ。

「携帯〜？何って言っても携帯は携帯だろ」
“いや、そうなんだけど・・・・・・”

もごもごと受話器の向こうで口篭る声が聞こえた。押さえて貰ってる中、手早く中華鍋の中をかき混ぜ、火が通ったら少しだけ掬い取る。

“・・・・・・これの中に、さっき保護したサラマンダーが吸い込まれたんだ”

息を吹きかけ冷ましたそれを口に含んだ。——少し薄いか。
醤油投入。ファイヤー着火。

「てんてんてん。ピコーンピコーン、ピコーン…ヴォン。やったー、ヒトカゲをゲットできたぞー！」
“前の擬音は何だい？”
「ちょっとした通過儀式みたいなもんだ。まぁ中にいるサラマンダーは大丈夫だから気にすんな父ちゃん」
“回復したら仮契約を切ろうと思っていたのに・・・・・・”

溜息をつく父。おいおい幸運が逃げるぜ。
味を調節した炒飯を冷まし、一口味見。うん、いい感じじゃねぇ。
妹にそのまま差し出したら、若干嫌そうな顔をして、傍に置いてあるスプーンで掬ってから味見をした。oh・・・・・・思春期の初心にしちゃ酷い顔されたぞ。

「そういや何かそういうプログラム突っ込んだ気がすんな〜」

新型の携帯が手に入れることが出来、ついテンションが上がって分解して構造、骨子や電子回路を弄繰り回した。父ちゃんの任務で翻訳機能を付けて欲しいとのことなのでそれを元にして言語補助機能、拡張現実感も兼ね備えた敵捕捉機能も搭載した。
持ち主の周囲、父ちゃん限定で起動する様にプログラムした程度だ。
その他余分なリソースがあったので幾つかのアプリケーションを組み込んだ。気が済むまで組み込んだ。すっげぇ楽しかった！そして父ちゃんに投げた。

“これ、この子を解放したいんだけど・・・・・・”
「あ？野に帰すってか。でもそれ可笑しいぜ。そのプログラムは相手の同意があって、始めて“ゲット”出来るっつー仕組みにした筈だぜ？父ちゃん相手になんか認められる様な事したか？」
“いや、普通に治療したぐらいしか心当たりが・・・・・・”

肩と顎で受話器を固定しながら、皿に盛り付けていく。
ドーム型は子供の憧れが詰まった形だぜ。
何にせよ、当の本人にはまたく心当たりが無いみたいだ。サラマンダーねぇ・・・・・・。

「なぁ父ちゃん。そのヒトカゲさぁ、どうやって出会ったんだよ？」
“え、襲われていたから助けただけだよ。それに気絶したままだったから、病院に連れて行こうと思ったんだ。こちらは治療出切るも何も、この携帯以外備えも何も無かったから”
「なら大体鶴の恩返し的なやつじゃね？徐々に自分裸体晒すと同時に布作って恩返しするアレな」
“若干ニュアンスが違う気がするけど・・・・・・”
「そいつ骸に襲われた後に父ちゃんが間に入って助けたーってな感じなんだろ。その恩に報いる為に力を貸してくれるってんなら有り難い事だらけじゃねぇか」
“そうだけど・・・・・・。でも他の世界の子を巻き込む訳には”
「んじゃあ、契約期限つきにでも設定しておくか。今父ちゃんがいるのは精霊と契約していることが条件なんだろ。その間だけは世話しとけよー」
“ちょ、世話って———”
「データは後で送るなー。ばいなら〜」
“ラ、ラルクス待って———”

「よ〜し、食うか〜」
「遅いぞ、馬鹿兄」
「僕お腹すいちゃったよ〜・・・・・・」
「あ？テメェ達先に食っとけて言っただろ」
「偶々待とうと思っただけよ。早く早く」
「へいへい。ありがとな〜」

自分の席に着く前に、先に手に持った子機を、ケーブルに繋がっている台座に置く。

(サラマンダーねぇ・・・・・・)

火蜥蜴———それを捕まえるには同族のサラマンダーの皮が無いと触ることなんて無理だ。まずそいつらが纏っている火に肉は溶かされる。それを父は無意識に、素手で触ったんだろう。
俺達も火にゃ強いけど、一番母ちゃんの加護を受ける父ちゃんは火炎は殆ど通らねぇ。幾兆の光と熱でも焼き尽くすことは出来ねぇし、爺とやり合って五体満足でいる事がその証拠だ。
炎がそいつらにとっての武器で、自分達の守る砦だ。水じゃ気化。肉は残骸すら残さない。同類の皮か同等の火の化身しか触れる事なんてできねぇ。
敵を阻害する城壁を踏み崩し、猛火も通用しない相手。しかもそいつは女神の加護付きときた。

「強者への畏怖と服従の証かぁ？」

背中を向けている弟妹に見えない位置でニッと乱杭歯を剥き出しにした笑みを浮かべる。
まぁただの想像だけどな。

「おい、二兄。早くしろ」
「お〜、わりぃわり〜」
「それと・・・・・・服を着ろ」

フリフリの白エプロンを脱いで、全裸になった自分に向けて、冷ややかな目が向けられた。
おいおい、ドライすぎねぇ？

　　　　　　静かにはたきを構え

　　　　　　襟元を正しながら周囲を窺い

*何かを発見して嬉しそうだ*