※この日記はEno.458より続いています

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ユカラ・センドウ （age14）

　幼き頃、妹と一緒に奴隷商に売られた少年。
　労働力ではなく愛玩奴隷として貴族にいたぶられる毎日だったが、国の騎士団が帰属の屋敷を奴隷違法条例に於いて襲撃。
　セツカ（Eno.458）に匿われながら騒ぎの中逃げ出すが、セツカと別れた後、目的不明の別の追っ手に遭遇。
　崖から転落し瀕死の重傷を負うがレイヤ（Eno.458）によって助けられる。
　数年後、サクラの卒業試験についてくる形で旅をしているうちに生き別れの妹であるマグノリアと再会した。
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それは僕にとって、まるで頭をガツンと殴られた様な衝撃─
…なんて優しいものではなかった。

僕を助ける為に、兄上は自身の生存手段を断ち切り、ソレを僕に与えていたのだ。
今となっては本当の家族の様に互いに思っているだろうが、僕と兄上が会った時、間違いなく僕達は赤の他人だった。
兄上からしてみれば見知らぬ子どもがひとり家の傍に転がっていただけで、それを見殺しにする事だって出来た。
いや、自分の命と天秤にかけて見知らぬ子どもを助ける選択をする方がおかしいのだ。

だが兄上は僕に、自身用の薬を与えた。
その薬はとても強力で、僕が負った傷などすぐに治ってしまった。

強力な薬というものは錬金術において作製する場合、様々な材料、そして知識と魔力を必要とする。
兄上の身体の消耗を考えると、その薬は二度作ることは出来ないものだった。

「…………」

なんで僕に、とは問わなかった。
兄上をよく知らぬ人から見れば、兄上は自分本位な様に見えるかもしれないが、僕は優しい人だと知っている。
まだ幼い命が、生きようと必死に這いつくばっていたのを見捨てられなかったのだ。

「…ユカラ、あのな…お前はショックだろうけど、レイヤ先生は…」

僕が黙って俯いていたからだろう、セツカさんが声をかけてきた。
僕はセツカさんを見上げる。
ここに来る前に色々あってまだその辛さも癒えきっていないであろう彼の瞳は、僕を心から心配している様に見えた。
そして彼もまた当時の僕を助ける為に東奔西走した人だった。

「兄上、セツカさん。」
「…なんだ、ユカラ。」

セツカさんの声を遮り、２人を呼ぶと兄上が返事をした。
いつもの様に冷静ではない、その声色に不安が少し乗っているのを僕は感じる。
兄上はこんな時まで自分の事より僕の事を気遣っている。

「サクラさんが…卒業試験を放棄して兄上を助ける為の研究をしてるんだよね。」
「…ああ。」
「兵庫と道産子も、自分達の帰還を後回しにして兄上を助ける為の薬の完成を待ってるんだよね。」
「そうだな…。」

それなら、僕がどうするかも決まっている。

「僕はサクラさんのお手伝い出来るよね？必要な素材を集めたり、戦ったり、簡単な調合なら手伝えだってする。なんでもする。」

兄上とセツカさんが少し驚いた様な顔で僕を見ていた。
やはり二人とも僕が自暴自棄になってしまったりショックで倒れたりするとでも思っていたのだろう。
感情だけに身を任せてしまえばそうなっていたかもしれない。
けれど僕は知っている。

この命は二人に守られた。
だから決して粗末にしない。

その代わり、僕は二人の為に出来る事はなんだってしたいんだ。