現在から、少し前の話をしようか。

メルンテーゼに行き来できるようになってから週末とかに散策を楽しんでいる僕なんだけれども。
幸いにして言葉は通じるので、旅先での世間話なんてモノも当然のように行う。
そうすると、やれ王様がどうの　ネクターがどうの　一揆がどうの　と言う話が聞けちゃうわけだ。
そんなキナ臭い噂なんかを聞いちゃうと、やっぱり自衛の手段も必要だよね？
なんて名目で市場を冷やかしたりして歩いてたんだ。
ああ、お金はどうしていたかって？
恥ずかしい話だけれど、友人のガル君が以前に入手した事があるとかで　お小遣いをもらっていたのさ。
まぁ、オヤツを買ったりできる程度の額だけれどね。
そうそうオヤツと言えば、この間偶然に見つけた喫茶店でね……え、それは又の機会でいい？
残念だなぁ、すっごく美味しかったのに。

ええと……どこまで話したっけ？
ああ、そうそう市場を散歩している所だったね。
その日は僕にも使える自衛手段がないかなって思って市場を見て回っていたんだよね。
簡単な護身術なら、少しは習ってたんだけど……魔物とかの相手は無理だろう？
だから取り合えず携帯可能な武器でも持とうかなって思ってさ。
それで、結構見て回ったんだよ。
剣とか槍とか、斧とかね。
いやぁ、本物って重いんだねぇビックリしたよ。
実際に触ってみて、武器に振り回されそうだからこれは無理だなぁって思ってた所で見つけたんだよ。

「ちょっと、そこのお兄さん。
　ええ、そう……貴方です。少しばかり見ていきませんか？
　他所の店には無い品揃えであると、自負していますよ」
なんて声をかけられたんだ。
まぁ、どうせ冷やかしだし　と割り切って、その露天を見てみたんだよね。
店主の台詞の通り、他所の店舗とは品揃えが全然違ってた。
何せ僕に馴染みがありそうなラインナップだったからね。
特殊警棒やスタンガン、鋼線でできた隠し武器……そして、銃。
「ねぇ、これって本物？」
「少し弄れば、実弾も撃てますよ」
「へぇ……面白いね」
「ええ……面白いでしょう？」
「幾らするんだい？」
「実はあまり儲かりませんので……河岸を変えようと思ってましてねぇ。
　その際に荷物を減らしておきたいので捨て値でかまいませんよ？」
「やぁ　それはありがたい。実は手持ちがあんまりなくてね」
「閉店記念のサービスです……こちらの深紅の華もどうぞ。
　きっと、貴方の助けになる事でしょう……」

なんてやり取りがあって、丸サングラスの店主から銃と華を手に入れたんだけれど。
それを自宅に持ち帰ってガル君に驚かれたり。
そこから手入れをアレコレやって、実弾を撃てるように細工したりして一夜が経って。
飾っておいた深紅の華の花弁が一枚減っていたんだよね。

一揆に参加する時にルリアンナ君に言われて、ああいつの間にかエンブリオと契約してたんだなぁって思ったんだけど。
この時はまだ、それに気がついてなくってね……。
いやぁ、大変だったんだよ？
っと、そろそろ舞台の稽古に行かなくちゃ……続きは、またの機会にね。

　　　　　　静かにはたきを構え

　　　　　　襟元を正しながら周囲を窺い

*何かを発見して嬉しそうだ*