——不意に、頭頂部に搭載された通信用アンテナ【Ｏ・プーナ】が喧しく唸った。
喧しくとは言っても、通常の生物の可聴域を外れた音である。聞こえる者はまず居ない。
ムッコロボは備え付けの通信プログラムを機械的に起動した。

＼ゴッ！／＼ゴンッ！／

ゴンゴンと自らの頭を小突きながら悪態を吐く。古いテレビかお前は。

＼バゴッ！／＼ドゴッ！／＼ドゴス！／＼ギアッ！／

この場所に迷い込んでから幾度か通信を試みたものの、それが届く事は無かったのである。
圏外かというとそうでもなく。通信機構の故障かというとそれでもない。
通信可能な『世界』そのものから隔絶されてしまった、と考えるのが妥当な所だろうか。

そんな折での受信である。これはカンダタにスパイディであった。

頭部に組み込まれた立体投影システムが、ワンテンポ遅れて通信の主を映し出した。
金髪碧眼の、まだ幼さの残る顔立ちをした少年だ。
ムッコロボのメモリーチップ内には、彼のデータが存在していた。

少年の話によれば、ムッコロボが居た元の世界では最近類似した現象が頻発しているらしい。
当初こそ神隠しだのなんだのとオカルトめいた狂言でウヤムヤになっていたのだが
増加していく行方不明者を無視する事も出来なくなり、原因の究明を開始したという話である。

通常のAIプログラムなら理解不能な話だが、別ベクトルに欠陥を持つムッコロボは状況を理解した。

「絶対に！ 絶対にだ！ デイヤーッ!!!」
けたたましい掛け声と共に、ムッコロボはブースターの出力を最大まで上昇させる。
エンジン音が風を切り、地を震わせ、木々を揺らす。そして彼は大地を蹴り、飛翔した。
幾何学模様を描きながら大空を裂いて飛ぶこの鉄塊を止めよう者など、誰がいようか。

——正直止めたくないというか、関わりたくもないが…

女はひきつった笑みを作った。