「どおぉるぁぁッ！！」

巨漢の怒声が響く。
私の時点で、3、400人は相手していたみたいだ。
後ろにまだ1000人以上待っていた気がするけれど、きっともうヤケでやっているんだろう。
通過儀式みたいなそれを、早く終わってくれ、とか考えたりしながら。


私はこの手の大声が好きではない。

威嚇、恫喝。気合。力の誇示。
そういったものに屈するつもりもないけれど、
一度意識してしまうと、どうにも身体が強張ってしまうのは仕方ない。
帽子が無かったら、きっと足がすくんでしまうことだろう。



　　　　　　　　　　　　◇◇◇


腕試しとやらを終えて、水辺の方へ。

お城までの道は、小さい頃に歩いた事がある。
大丈夫、知ってる。



そして、道を知っていたところで、
最短距離、最短時間では到底たどり着けない事も、思い知らされた。

何か手刀で何かを切るような仕草を、ウサギの帽子の少女は見せてくる。
話している内容はわからないけれど、笑顔を浮かべる様子を見れば悪い内容ではない、気がする。

彼女の仕草を真似るように、とんとん、と切る仕草をとりながら、何を伝えたいのだろうかと首を捻り。

指をさすのはキッチンの方。
緩く首を傾げて問いかけようとしているを伝えようとするが。

話しかけて来た小さな背丈を見下ろし、肺腑に息を吸いこむ。
口許にあてられた骨ばった指に挟まれた煙草の先で
酸素を通した火がちりちりと明るく燃える。

どうにか。と、言われて軽く肩を竦める。

かさついた声がぼやくように呟き、兎耳に似た帽子へと視線が流される。

名を呼ばずのまま相手を身目で呼称して、男は ふかりと煙を吐き出した。

すれ違いざまに、赤い果実を放り投げ。

気絶したマーメイドの髪を掴んで顔を覗き込む。