B - 青 Bleu
　メルンテーゼに来て初めて、空の色が魔力 Mana に左右されるものではないと知った。頭上にはノタウィア・マニスと似て非なる青色が充ちている。ノタウィア・マニスに産まれた碧眼の人間は、かの世界の空には少なからず感応したものだ。だがメルンテーゼの空といえばどうだ？あんなにも青く澄んでおきながら、何物をも差し伸べることなく空っぽの——朗々として広がるばかり、この私という小さな人間にただの一瞥もくれはしない、かつて詩人の魂をも打ち据えたあの圧倒的な青空 L'Azur ！
　私は青色の前では常に言葉を失った。染み一つない肌に透ける青い血 Sang bleu に、血の冷徹さを落とし込んだように青黒いインク L'encre bleue に、そして産まれ持った魔力の厳然たる差を象徴するような、私より遥かに深い碧眼 Les yeux bleus に。それからあのイグシル——竜を伴った斧使いイグシル、彼はこの戦いに何を思っているのだろう。いかにも新兵 un bleu の直截さではないか？我々は心しておかなくてはならない、我々の力がけして互いの目的のために十全に作用するものではないことを、そして互いの力が十全に作用しない場合には、我々は常に互いの前から離れる準備があることを。
　そうして寄る辺なき青色のうちで、私はメルンテーゼの革命に荷担しつつある。ノタウィア・マニスへ帰れるという保証はない。あの戦いの日々へ無事に戻ることなど望まない。だが私は歩み出さねばならなかった。どこからともなくこの足を引いて止むことのない引力にこそ、私は抗わなくてはならないのだ。分類しながら、取捨しながら、反芻しながら、透徹した解放へ至るための道程にやがて深い青が立ちはだかることを知ってさえ、私は述懐を必要としている……