夢の中のミラは、自分が以前の自分とは明らかに違うことに違和感を感じなかった。
それどころか、本来の自分が力を持たないただの少女であることを忘れてさえいた。
今の自分が本当の自分であることを信じて疑わなかったのだ。
きっと、夢の中のミラが生き生きしている様をミラの両親が見たならば、とても明るく振る舞う様子にとても驚くだろう。
それ程に、ミラは思い描いた自分の姿に夢中になっていた。

——夢を見ている間は、有り得ないことも当然のことのように受け入れてしまうことがある。

しかし、夢から引き戻されると途端に現実を突きつけられる——

夢を見始めて数か月たったある日、突然訪れた夢の終末。
身体が急に重くなり、消失していく感覚に襲われる。
自分の身体が消えかかっている時のミラは、まだ楽しい冒険の日々を止めるわけにはいかないと思っていた。
まだ、こんなに楽しい毎日を終えたくないと。
そう自覚したとき、ミラは初めて自分が夢の世界に居たのだと自覚した。
本当の自分は冒険なんてできない女の子で、今まで好きに宙を飛んでいた自分は本当の自分ではないのだと、薄れゆく意識の中で確かめさせられた。

……あんなに楽しい仲間との冒険の日々を忘れられるはずがない。
これからもずっと味わい続けていたい。
自分が非力だなんて関係ない、みんなと手を取り合えばきっと冒険ができる！

夢で味わった冒険の魅力は、彼女を現実の外へ誘う。
突きつけられるはずの、現実への失望も跳ね除けて。

「冒険って、凄く楽しいのね！」

フルートの音が聞こえる…