手当たり次第に跡を辿っても、手探りで道を探しても、まるでこの手から零れ落ちる様にあいつの痕跡が途絶えていた。

それは必死になって手を伸ばしても、運否天賦に身を委ねてみても一切変わりが無かった。

だから俺は目を閉じ、心の赴くままに歩みを進める事にした。

目を閉じていても風の音や不意に訪れる直感が向かうべき方角を示してくれる。


・・・・・・もうそれ程遠くは無ぇな。

もうしばらくの間だけ待っていてくれ、あと少しなんだ。



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俺が大戦に参加したのは、世界の人口が五分の一ぐらいになった頃だった。

一族を息子に託し、俗世から離れて豪雪積り寒風吹き荒ぶ吹雪の山脈であいつと共に隠居していた時。

ただの灰空と雪ばかりしか無いこの山奥に、帝国からの使者が訪ねて来たのが始まりだった。


その使者の告げた言葉を鵜呑みにすると、

何でも、幻獣族や龍族そして魔族や準神族といった最早生物としての範疇を超える存在を更に凌駕する化物が現れたのだと。

そいつは生きとし生けるもの全てを喰らい尽くし、殺し尽くし、海や大地や空さえも侵し尽くしす死の使いなのだと。

国家や組織が大規模な討伐隊を化物共へと向かわしたが、全く成果を上げられていないのだと。

大陸の一つがその化物共に喰らい尽くされ、死の大地と化したのだと。

だから、隠居前に国軍でそこそこ名を上げていた俺を召還したいのだと。

報酬は己が望むものを何でも、可能な限り叶えるとの事だった。


俺はあまりに規模がでか過ぎる話に鼻白んだ。

隣で話を聞いていたあいつに目をやっても戸惑った様な視線を返すだけだった。

使者はそんな俺を見て更に告げた。


その化物共が現れた西の大陸にほど近い国家が一晩で滅んだのだと。

ヒュージギガースやヘヴィメタルドラゴンにも勝る破壊力。

国の在った場所に巨大な大穴が出来ていたのだと。

ワイルドランバージャックやレイジストームサーペントをも上回る凶暴性。

兵士や男衆はおろか、女子供老人や野生生物や植物に至るまで根こそぎ死んでいたのだと。

エデルスフィンクスやレクレスディアウェイなどをも超える知性。

大穴周辺には明らかに結界を張った痕跡や時間を掛けて弄られ殺された死体があったのだと。

そしてグレーターデーモンやヨトゥンドラゴニアすら凌駕する戦闘能力。

未だに一体でも倒せたという報告が無いのだと。


使者はそう言い切った後、自分の服に手を掛け大きく肌を露出させた。

そこには腐敗臭も呪痕跡も無く、ただ金色に光り爛れて貪り喰われる身体があった。

使者は静かに告げた『助けてほしい』と。

何を、と尋ねようとするよりも早く使者の身体が崩れ落ち、ドロドロに溶けて床に広がった。

金色の汚泥は床板へと瞬く間に染み込み、パチパチパキパキと小気味良い音を立てて浸食し出した。


あいつは既に詠唱に入っていた。

すぐさま発動した術式により凍土と寒風の精霊が現出し、汚泥を幾層にも凍結させ封じた。

俺もその上から封印を掛け、金色の汚泥の動きを止めた。

一息つき、使者の言葉を改めて思い返し目の前のモノに目をやった。

どうやら、事態は伝え聞いた以上に深刻な様だ。



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腕試しにしては拍子抜けする程一方的な勝利だった。


俺はラルフとかいう大男から少し間合いを離して杖を振りかぶって構え、風切の呪文詠唱を開始した。

風の流れを操り双渦を巻く様に回転させ、風の円刃を二つ作り出す。

杖を振り下ろしたその勢いのまま眼前の大男へ飛ばす———ほぼ不可視の刃が肉を切り裂いた。

大男は意にも介さず筋肉を締め、こちらへと突撃して来た。

ぶち当たる瞬間に後ろへと飛び、衝撃を和らげつつ重ねて詠唱を行う。

両の腕を横に伸ばすと、その先に再び風切の円刃が———腕を交差させる様に振るい射出する。

大男は気勢を発し腕を交差させながら耐えつつ再び突進。

負傷しても尚前へと進む続ける気迫は見事だが、わざわざ当たってやる道理も無い。

大男の死角、右下側に潜り込む様に素早く入り、躱したと同時に膝裏を杖で打った。

大男の体勢が崩れ、ゴロゴロと土煙を上げ地面を転がってゆく。


土煙が晴れると拍手が聞こえた。

どうやらこれで試験は合格らしい。

紅い花を一輪と見た事も無い木材と鉱石を貰い、俺は広場を後にした。

広場を出る俺の背後から歓声やどよめきが聞こえる———次の挑戦者の腕試しが始まったのだろう。

俺は一息ついて、酒場へと向かうべく歩みを進めた。



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酒場に着き俺が応募した記事について主人に尋ねると、既に募集主は奥の席で待っているとの事だった。

軽く頷いて指定された席へと向かうそこに居たのは———桃金色の長髪に緋色の瞳と黒の左片羽を持った少女だった。

頭を掻きながら暫しの間そんな考えを巡らした後、俺は意を決して席に着いた。

互いに自己紹介を交わし、目標と編成の目的を尋ねた。

アリスと名乗った少女の言によると、目標は王城外を流れる川辺の探索。

そして編成目的は組織行動の大まかな動きを掴みたいとの事だった。

俺も組織的に動けばどの程度まで行動可能かは知りたい点だった。

探索地域も不満は無く、特に問題も無さそうだったので大きく頷き次の言葉を待った・・・・・



・　　・　　・　・　・　・　・　・・・



・・・・・そこで会話が途切れた。


何か上手い話のタネでもあれば良かったのだが、あいにく今日の所は持ち合わせていなかった。

広場で行われていた腕試しの事はありきたり過ぎてつまらんだろうし、いきなり相手に踏み込んだ話題を振るのもダメだ。

例えば少女の抱えているボロボロなぬいぐるみの事や、何故片翼なのかといった事はいきなり尋ねるのには無粋な話題だろう。


そのまま沈黙は続いた。

「あー・・・」だの「えっと」だのといった言葉も聞こえてこない。

俺が話を切り出さず少女も同様であるならば、黙っていた方が良いという事だ。


とまぁ、しばらくの間酒場の喧騒に耳を傾けていると更に二人が俺達の居る席へと着いた。


紺色の長髪を後ろで束ねた飄々とした青年と、橙のマントが印象的な白銀の長髪を持つ少女の二人組だった。

軽く自己紹介を交わすと、二人は目的等を片翼の少女と話し合い始めた。

俺は適当に相槌を打ちながらそれとなく後から来た二人に目をやった。


ユーノという少女の方は・・・これは鎌だろう、何故こんなに物騒な得物を選んだのか・・・・・

元気で明るい普通の少女にしか見えないが、治癒の力を持っているらしい。

この若さで癒しの術を使えると言うのには驚いた。

しかしとてもでは無いが、自ずから反乱に身を投じている様には見えない。

・・・まぁ、何らかの事情があるのだろうな。


ソクという青年の方は長柄の複合武器を得物としている様だ、扱いも手馴れた感じを受ける。

少し斜に構えた様な性格に見えるが、これもまた何らかの事情によるものだろう。

この面子の中では唯一の物理前衛型だ、敵への攻撃に仲間の盾に、このパーティの要となるはずだ。

それにしても、ユーノという少女の事を妹と呼んでいたが・・・本当はどうなんだろうな。


・・・・・まぁ、どれもこれもあれこれ詮索する様なものでは無さそうだな。

こうして集まったものの、パーティを組んでいる時間はそれ程長く無い。

視線を天井へと向け、ボリボリと頭を掻きながら溜息を一つ。



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ガチャガチャと次から次へと料理や飲み物が運ばれてきた。

円卓いっぱいに旨そうな湯気を上げる料理が並び、食欲をそそる香りが広がった。

かなり豪勢な晩メシになったが、この御代は誰が払うんだ？

なぁ・・・俺かよ、おい・・・・・


真っ赤な柑橘果汁の入ったグラスを両手で持つ片翼の少女。

雪解け氷水の入ったジョッキを軽くつまんだ飄々青年。

温めた牛乳の入ったマグを高く掲げる白銀髪の少女。

一癖も二癖もありそうな個性的な面々が集ったが、まぁ大丈夫だろう。

俺はずっととある気配を感じていた・・・ここに集う皆が一様に放っている強い意志を。

＜前を向き始めの一歩を踏み出せる力＞———即ち、決意を宿している様だ。


一先ずは結成と明日の無事を祝って乾杯だ。

俺は熱々の薬草茶の入った湯呑を持ち上げた。

各々の性格を表す様に、様々な種類の液体が入った杯がキィンと音を立ててぶつかり合った。

〜時系列はお送りしている個人メッセージよりたぶんほんの少しくらい後かもです〜

　時系列はPT会話とほぼ同時刻

男の姿をみて一瞬不安そうな表情を浮かべるが、それを断ち切るようにまくし立てる。

目の前にキラキラと光る小さな物体が浮遊している
それがくるりと一周すると、目の前に自分と同じ姿をした人影が立っていた。

人影は名乗ったと思いきや、女性の姿に変わった。

コロコロと鈴の音にも似た笑い声をすると、じーと見つめる。

一瞥もくれずに歩み去った

ドゥーロはアイテムを見つけた

一瞥もくれずに歩み去った