Day1

青の瞳に銀の髪、小柄な体型をした随分と若い娘が崖の上に仁王立ちをしている。

アイーダ・マレットと名乗るその娘は眼下の光景を鋭い目線で見ている。

熱気を孕んだ強い上昇気流がアイーダの衣服をはためかせる。

その眼は何を見ているのだろう。

間違いなく歴史に残るだろうこの大規模な一揆に集う無数の人々か、それとも別の何かなのか。

「ここに彼奴がおるのかぇ・・・」

呟いた言葉は風に溶け消えてゆく。

いつまでもじっと、手のひらほどの大きさの人々を眺め続けるアイーダ。

「・・・アイーダ、アイーダ」

「なんじゃ、ティアエル」

気が付けばアイーダの横にはアイーダと同じ衣装の瓜二つな姿をした娘が立っていた。しかし、アイーダはさもそれが当然のように応答している。

二人の姿は肉付から髪型まですべて同じなのだが、よく観察すれば瞳や髪の色がわずかに違うのがわかる。しかし、もっとも違うのは纏う雰囲気だろう。非現実的な浮いた印象を受ける。

ティアエルと呼ばれた娘はもう一人のアイーダとも言える存在。

元はエンブリオなのだが、ネクターを介さない独自の方法でアイーダと契約をしておりその副作用として相互に混ざった存在になってしまっている。

「ねえ、アイーダ。いいのそれ？」

感情に乏しい表情でアイーダに問いかける。

「何の事じゃ？」

ここで初めてティアエルの方を向く。

「下の人にスカートの中を見られてますよ？ほら」

指差している方に目線を向けると、こちらが見ているようにあちらも見ていたようで何人かがこちらの方を見ている。そしの中には双眼鏡を手にしている者もいるのがアイーダにも分かった。

「ひゃっ！な、なんじゃとっ！？そういう事はもっと早く言わんかっ！」

慌ててスカートの裾を抑えて後ろに下がるアイーダ。その顔は羞恥のためか仄かに赤くなっている。

「そんな風の強いところに立ってるからですよ。たしか、今日の下着の色はｋ」

「ティアエル、黙るがよいぞ？」

スカートの裾を掴んだまま睨みつけるが、赤い顔では迫力はない。

「んもう、せっかく教えてあげたのに。しかし、ボクには分からないなぁ。見られるのを嫌うのにこーんな短いスカートを穿くのは何故なんだい？ズボンか長いスカートにしなよ」

スカートの裾をつまんで興味深そうにひらひらはためかせるティアエル。

「ええい、止めんかはしたない！もう行くぞ、茶の時間じゃ！」

大声で怒鳴り大股で足早に立ち去るアイーダ。

「ああ、いっちゃった。アイーダとは長い付き合いだけど、考えてることは全然分からないな」

アイーダの背中を見ながらつぶやくティアエル。その場を離れ歩き出そうとしたが、ふと足を止め集団へと視線を向ける。

「ふぅん？・・・アイーダ、君の願いは案外早く叶うかもね」

相変わらずの能面の表情の中に微かに愉悦を滲ませ、呟くと立ち去った。

目の前を走り去ろうとしていた少女が、何かに気が付いたかのように戻ってきてアイーダの顔をじろじろと見た。