過去日記2回目　迷子
(メルンテーゼにて/述懐者：ミシェル=L=ティルフォ)

私が次に目が覚めたのは家の中だった。

……マイス？
大きさこそ小さいが、姿は娘のマイスそのものである。

話が見えない。誰が精霊に転生したというのだ。
……そういえば、私は何日寝ていたのだろうか。
抑々、ここは海の底じゃない。
……解せないことだらけだ。

……ヴィーヴル。か。　沈んだ筈だったが——
こういうこともあるものなのだな。

『その後は主なき幽霊船として何年も何十年も水底を彷徨っていく——はずでした。
　だけど、艦は光芒を発して、ある世界へと旅立ちました。
　ミシェル、そして、皆含めて。　きっかけはわかりません。

　ネクターと呼ばれる存在が私を転生させて、そして、皆を蘇らせる
　きっかけになったことは確かです。
　勿論——　艦の方も今は滞りなく使えます。』

彼女はそう付け加えていった。

私は軽く考え込んで辺りを見回す。簡素な家の中には当面静養がてら過ごすには
問題が無さそうであった。恐らく他の船員は既に起き上がって働いているのだろう。
……私が最後の起床者。ということか。情けない。

私は王城の港へと繰り出す。すると、ヴィーヴルは沈む前の姿で残っていた。
臼砲、スプリットセイル、キール、マスト——　全てがあの日の前に戻ったかのように。

第二の人生。か。とりあえず、情報を得る為に再び町へと戻った。

$$$$$$$$$$$$$$$$$$$ そんなことがありまして $$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$

一揆。それは階級闘争などではなく、本来は条件闘争であった。
値引きを半ば実力行使で行うような。ある意味正当な権利なのだ。
値引きである以上強訴した側も支払い、貰う側も数こそ減るが確実に得る可能性は上がる。
決して失政などの産物ではないのだ。

……であるが故に、今の状況は階級闘争の様相を呈せざるを得ない。
冒険者や英雄、食い詰め浪人、様々な存在を内包した怪しげな集団による闘争。
だとするならば、この戦いの落としどころとは？

ともあれ、私としては元の世界に戻るだけのネクターが手っ取り早く手に入ればそれでいい。
この戦いに身を投じなければ自分が生きるだけのネクターすら手に入らないのだから。
他の人間はどういう目的でやってきたのかわからないが。

ルーリ嬢などは実に善人の貌をしているし、裏も表もないのだろう。
だからこそ、この戦いが何を以って大儀として存在するのかがぼやけているのだ。
それくらい雑多な存在がひしめいている。

そう言って、彼は木気を帯びた剣……という名の杖を抜いて構えた。

そう言って、彼は木気を帯びた剣……という名の杖を抜いて構えた。