何故か私も伯爵と一緒に叱られました……。

　＊　＊　＊

この世界——メルンテーゼに来てから、色々な人に会いました。

まずは、アトラさん。律法の世界トルラルール出身の、律法騎士。

ちょっと怖いけれど、服とか買ってくれたし、ご飯も食べさせてくれたし、いい人だと思う。
私には律法とか、よくわからないけれど。
一生懸命がんばりたいと思う。


ネムちゃん。人間が嫌いなネムちゃん。

私のことを、『ひとでなし』と呼んで、親しくしてくれる。
私は人間だけれど、そう言ってしまうと、ネムちゃんの心が離れてしまいそうで、私はそうは言えない。
と、サルスベリ伯爵。ネムちゃんがよく伸ばしてる。ご飯を、美味しい美味しいって食べてる。
なんで逃げないんですか、って聞いたら、とりあえずご飯とか食べさせてもらえるし、って言ってた。


リナリアさん。つれてるトントンさんがかわいい。トントントントンしてる。
リナリアさんも美人で、かわいいのだけれど、何だろう。見てると、とても不安な気持ちにさせられる、ような……？

ううん、きっと気のせいかな……。


その３人と、一緒に戦うことになりました。
そして、戦いに行く前に、近くで空き屋を見つけて、そこに拠点を作ることになりました。
一揆でうち捨てられた農家のようで、牛さんとかもいます。

ところどころが壊れていたので、私とネムちゃんで、近くの林から木材を切り分けてきて、修繕とかしました。

アトラさんは、いるもの、いらないものをわけて片付けたりしていました。
中央の一番大きい広間は、律法騎士団の集会場兼作戦会議の場所になるみたいです。

リナリアさんはテーブルを拭いたりしていて、
トントンさんは……なんか、通り過ぎた後が綺麗になっていく……！？



過去のことは全然覚えていないけれど、ここが私の帰るところになるんだな、って思うと、とても安心するのでした。
帰る場所がある、というのは、幸せなことです。
私がこの世界に来たとき、記憶を失い、あの場で立ち尽くしていたとき。
私には、帰る場所はありませんでした。
いや、正確には、あるのかもしれません。どこか、知らない世界に。
私を待っている、無事を祈っている人がいるのかもしれません。
けれど、それらは失われてしまった。記憶を損ない、忘れてしまった。
でも今、そう、あれからたった数時間のことなのに、こうして帰るべき場所がある。
仲間と呼ぶ人がいる。
それはとても、幸せなことです。
でも、私は、思い出すべきなのでしょうか。
失われてしまったもの、私を待つ人がいる、帰るべき場所を探すべきなのでしょうか。
自分の記憶を、取り戻すべきなのでしょうか。
私には、わからない。

そして、その３人以外の人とも。
このメルンテーゼの世界は、思いの他、私が知っている『人間』じゃない人たちが、いっぱいいるようなのです。
そして、私のような人にも、居場所がちゃんとあるように思いました。
私が一揆志願者の列に並んでいる最中、いっぱいの人に話しかけられました。
私も嬉しくなって、近くの、ちょっと『変わった姿』の方たちに、つい話しかけたりしました。

こんなに幸せな気分で、いいのでしょうか。これから、戦いに行くというのに。

　

巻き角が目立つ少女に声をかけられた。

フィリーのツノや目が気になり、つい視線をそちらへ向けてしまう。

　
　　　　　　一揆参加者の移動する集団の中、偶然隣り合ったらしき娘が話し掛けてきた。
　　　　　　目隠しをし、嫌に白い髪と肌をしている。有り体に言って、大変に胡散臭い。

　
　　　　　　微かに何か燃えるような匂いとともに、目隠しの奥から視線を感じた。
　　　　　　　貴女はこの相手を追い払っても良いし、適当に相手をしてやっても良い。

そう言うと隻腕の獣人は近寄り、フィリーの身体の彼方此方を観察しはじめた。

しばらく眺めていた獣人だったが、やがて満足したのか去っていく。