誰かの噂話を聞いた。
噂なんてもんじゃなかった。そこら中声を潜めながらあるいは荒げながらにこの話をしている。
「ネクターの独占」を計画している新王の話。

正直、王などどうでもよかった。
いつ変わろうが、誰に変わろうが、毎日はそう大きく変わらないし、どうせ会って話をする予定なんてありはしない。政事のどこかに不満があっても、ひとりがどうにか出来るわけじゃない。
それが世界というものだと思っていて、それ自体に不満や不思議なものを覚えたことはない。

ただ、そう思えていたのは、今まで本当に安定した治世の中で、自由に生きてこられたからだと思い知らされたような気がした。
細かな情報収集、などというものは向いていない。なら、この力を思うまま今の感情のために役立てるほかない。

声高に誰かが言った。「一揆」だと。
つまりひとりがどうにか出来るわけじゃない政事を、大勢でどうにかしてやろうということだ。
面白い。
どうにか出来る保証もない。それでも動くその意欲はとても好ましく思えた。
「面白そうなもの」「好きなもの」のために動くのが、何より楽しい。
口笛ひとつ、軽く椅子を蹴りながら、立ち上がる。

手持ち無沙汰に弾ませていた手の中のボールが、少しだけ強く投げられて、自由気ままにぽんと跳ねた。