「本当に行くのか、クルロット様。」
「もう決めたことなの。兄様が何て言おうと、お父様が飛んで来ようと、こればっかりは譲れない。
…あと、こういう時だけ様付けはやめて。からかわないでよ。私はまじめなの。」

クルロットが腕組みをすると、アルケニアは苦笑を返す。

「はは、こうでも言わなきゃ、クーはこっちも見ないだろうと思ってね。」
「どちらにせよ、追いかけてこられたら私より、アルや兄様のほうが早いわ。飛べるもの。
でも、お父様に言われたように、大型のエキュオスと契約するつもりはないわ。
それじゃ意思を持たない人形と同じよ。」
「先に言われたか。飛べると結構便利なんだが。」
「ネクターがない今、どのみち無理よ。」
「それもそうか。
…あと、ここまで来といてなんだけど、俺は止めるつもりはない。
ただ、怒号が屋敷中に響き渡ったから気になっただけさ。」

歩けには、ぱ、と手を挙げ、降参の意。隣で彼のエキュオスも同じようなポーズをとる。
彼より大きな茶色い鳥は、羽を広げるとなおさら巨大に見えた。

「…お父様のばか。」
「ほら、まだ言ってる。
そろそろ行かなくていいのか？ここから王城は遠いぞ。徒歩ならなおさらだ。」
「…うん、そろそろ行くね。」
「ああ、いってらっしゃい、クー」
「行ってきます、アル。お父様には隠しといてね。」
「まー。」

黙っていたマニが声をあげ、クルロットは山に向かって走り出す。
後ろを振り返りもせずに、道を進んでいく。

「…山越えが心配なんだけど。」
「ガー。」
「あと、すぐばれると思わない？」
「ガー。」
「まあ、いいか。決めたのはクーだ。たまには、こういうのもありだよ。きっと。」