遠景には、未だにラルフとの手合わせを望む長者の列が見える。
疲労の色も見えるが、流石は剛拳の名を持つ戦士。
武骨な外見とは裏腹に、一定のペースを崩さぬ、計算されつくした戦いを繰り広げていた。
しかし、注目を集めていたのは寧ろ傍らの少女の方である。
相方に戦いを丸投げしておいて、自分はあらかた挑戦者への説明を終えたか、笑顔でランチを頬張り始めているのだ。
ひどい。ひどいったらひどい。
未だに順番を待つ挑戦者たちからの視線がルリアンナに突き刺さるが、効果なんてものはない。
ごちそうさまー！という、少女の明るい声が無情にも響くのであった。

手合わせの怒号と歓声の中、日はゆっくりと傾いてゆく。
比較的早くに手合わせを終えた挑戦者たちは、それぞれ持参した昼食を口にしながら、後続者たちの戦いを見物したり、王城を眺めたりと、自由に過ごしていた。
その輪の中でもう一人、周囲の注目を集める少女が一人。

その少女は、一揆集たちの輪から、明らかに孤立していた。
彼女独特の人付き合いの悪さもあってのことだったが、それだけではない。
これで少女の容姿に、角のひとつでも生えていればその異様さは薄れていたのかもしれない。

嬉しそうにスカートの上に載せた「お弁当」は、素のままの木の根に、草の種。
そして、それらが絡めている土もその範疇だったようだ。

うーん、と上を向いて考える。
そのさなかにまたひとつ、ハッカの根をつまんで食べる。

アジュガの持つ草の根をひとつ、手に取り、カリンカランもそれを齧る。
先端から半分を齧り終えると、残り半分をぴしり、とアジュガの方へと向けた。
ほのかに、ハッカの爽やかな香りが広がる。

にこり、と微笑む従者に、カリンカランは頭を痛める。
ベルエトワールは何を教えてきたんだ。
むしろ、アジュガと知り合ってすぐ契約したならば、何も教えられなかったのか。
何故妖精の自分が、人間の文化を人間に教える約束をしているんだ。

ひとまずは、頭をからっぽにして、ハッカを食べきることにした。

　

　

匂いを嗅ぎながら数十ｍ程歩くスカル

貴方は市街地を出て直ぐの場所で誰か声をかけられた。

振り向けば、そこらの街娘と変わらないほどの地味な姿をした女がこちらを見ている。
彼女は懐から一枚の紙を取り出す。古びたそれは「手配書」にも似ていることが解る。

背後から、緑髪の妖精が声をかけてきた。
こちらの様子を興味深そうに見つめている。

今度は、人間の青年が歩いてきた。…どうやらこの妖精と知り合いのようだ。

誰かに、呼び止められる。
振り向けばそこには、見覚えのある赤い髪の少女。

（吹かれた口笛とつぶやきに顔を向けると、向かいから歩いてくる青年があなたの姿を見ていた。その歩みは止めず、しかし視線はあなたの姿——否、髪に向けられ。見ている自覚がないのか、両の緋眼はあなたの髪を注視したまま近付いてくる。）

（しかし結局青年はそのまま話しかけてくることもなく、すれ違った瞬間まであなたを見ているだけで通り過ぎてしまった。いや、声をかけられても困るのだろうが。
そんな彼に一体なんだったのだろうと首をかしげるあなただが、）

（不意に背後から何かがぶつかる音と、そんな間の抜けた声が聴こえた。）

（あなたがその声に振り向くと銀髪の青年が鼻をおさえうずくまっている。どうやら壁にぶつかったらしい。
彼もまたあなたに気付くと、鼻をおさえていた手を引っ込め、照れ隠しのように軽口と共に笑いかけてきた。
いや、軽口ではない。言うまでもなく、彼は先程あなたを見詰めていた青年だった。）

40cmほどの大きさの人形が自らの足で歩きながら近づいてくる。

40cmほどの大きさの人形がゆっくりと二足歩行で近づいてくる。

スカートの裾をつまみ一礼。

人形が急に宙へと持ち上げられる。
つまみ上げたのは、身長は170前後、青髪の耳長。