—同日、1130
この世界に来たときから既に、隣には小さな光の玉があった
最初は気にしてもいなかったのだが、流石にここまで長く居られると気になってしまう
左目で認視できるのだろうか・・・




レフは左目につけられた眼帯をめくりあげ、小さな光の玉をその目に捉えた。
すると、小さな光の玉は眩い光と共に人影を形成していく。
—金色の長い髪、長いまつげ、赤い唇、ほどよい胸、腰のくびれ、少々筋肉質な足、金色の右瞳。そして青と緑に分かれた左瞳……そう、小さな光の玉はレフの姿になったのであった。
ただ、ひとつだけ相違点があるとしたら、髪の色が今のレフとは違うようではあるが。
目の前で起こった出来事に、表情は崩れぬものの、内心では今までに体験したことのない出来事であるため困惑していた。
レフの姿をしたモノは、くるりとレフの周囲を一周するとじーっと見つめては不思議そうな顔をした。

「おどろかない？ううん、心の中では驚いてるんだ！
ならよかった、じゃないと私がいる意味がなくなっちゃうもの」
「・・・なら説明していただけるかしら？」

コロコロと鈴の音にも似た笑い声をすると、軽くポーズを決めた。

「初めまして、私はアルフヘイムの武器商人。レフって呼んで」

そう言うと、またコロコロと鈴の音にも似た笑い声を響かせた。
流石に自分の姿、そして自分の名前を名乗られたことにより、困惑を隠せないのか怪訝そうな顔をする。

「奇遇ね、私もレフって言うのよ」
「それはしってるよ、しってるにきまってる」

先にレフと名乗ったモノは、レフに近づくと目を見つめながら顔を指差した。

「なぜなら貴女は私、私は貴女。私はそういう存在として生まれてきたの
だから私は貴女の過去から今現在まで至る全てを把握している……

もちろん、貴女が自分の中だけに隠しておきたいことも全て、ね」

「全て・・・ですって？」
「だから言ったじゃない、私はそういう存在・・・
うーん、妖精の名を持つものなら分かると思ってたんだけど・・・」

レフの前でくるりと回ると、ニィと笑った。

「貴女の世界では『エインセル』と呼ばれてるんだね」
「エインセル、自分自身・・・つまり、私そのものということね」

レフが呟くと、レフ—エインセルは満面の笑みで拍手をすると、耳が尖り小さな羽根の生えた少女の姿になり、レフの右肩にちょこんと座った。
その姿は手ほどの大きさしかなく、先ほどレフと同じ姿をしていたとは思えない大きさであった。

「でも私も驚いたよ」
「ん、何がかしら？」

座っていたエインセルは小さな羽根を羽ばたかせると、レフの左目まで近寄った。

「その目、その目で私を見ると自分自身が投影されるんだ・・・
結構面白い目をしてるんだね、慧眼と言えばいいのかな？」
「慧眼・・・ね、まあそれでも間違っていないわね」
「ふぅん、じゃあなんて呼んでるの？」
「そうねぇ・・・『鷹の目』と呼んでるわね」

エインセルはコロコロと鈴の音にも似た笑い声をすると、今度はレフの左肩にちょこんと座った。
足をパタパタと動かしながら、レフのほうをじーっと見つめる。

「鷹の目かぁ・・・妖精の目じゃないんだね」
「じゃあこれから『妖精の目』と呼びましょうか？」
「そっちのほうが則してるよ、うん！」





—同日、1200
どこの世界でもそうらしいのだが、ここも隊を組んで行動したほうがいいらしい
これはお得意様である葬儀屋と薬師からの情報である
実際に彼らも一度、こういった体験をしているらしいので信憑性はありそうだ




長期依頼承諾より3日経過—

プルルル、プルルル、プルルル、プル……
ガチャ

「おい、電話は2コール以内で出ろっつっただろォ！オレ様、おこだからな！おこ！」
「はいはい、それでご用件はなにかしら？」
「あーそうだったわ、ついコールの話で時間を潰すところだったわ」

相手はお得意様である、葬儀屋と薬師の2人組だ。
今話してる饒舌かつ多弁家—つまり、人一倍うるさいのが葬儀屋である。
彼らは以前に1回であるが、分割世界のひとつに迷い込んでしまったらしい。……ことをこの前喋っていた気がするのだが
話を聞いたのは依頼を受ける以前であり、その時はそこまで不可思議なことを信じるほど私も心に余裕がないので少しばかり流していたのだが……

「あんさ、ちょっと小耳に挟んだんだが、何？分割世界にいくっての？
いやーさぁ、分割世界にいくってのなら、オレがマジでとっておきのお得意情報を教えてやろうかなァ・・・と！
思ったんだが、いる？いらない？てかいるよなァ？体験者の話は聞いておけってオカーサンとかからも教えられてるよなァ！」
「そうね、教えて頂けるのなら是非とも」
「ほらな！オレ様はなんて優しいのでしょうなァ！おい誰だよ、電話する前に『……必要ない』とかほざいてた奴は」
「……うるさい」

かすかではあるが、電話越しから別の声が聞こえてきた—こちらは薬師だ。
柳の木よりも細くて、万年栄養失調気味の彼がまだ生きていたことに他人ながらホッとしてしまう。

「ったく、ああでな！あっちについたら誰かしらと手を組んだほうがいいぞ
ババァのことだから一人でなんでもこなせるだろうが、流石に広大な世界だ、人のくらい借りたほうがいいぜェ」

話すたびに『ババァ』や『おばさん』と言われるので流石に慣れた。
しかし、私のほうが年下であるのにそう呼ばれることに少々納得がいかない、あれか、20歳以上はオバさんと言いたいのか。

「んーとな、あっちとこっちじゃ環境が全くちげーんだ
たしかにオレ様や魔女野郎がちっとばかし魔法が使えたり、あの詐欺師が異形の存在だったり、死掛け・・・こいつどうでもいいや
だったとしてもだ、あっちじゃそれは別に常識下にあって日常茶飯事なんだ、だから何があってもフーン程度で済ませろよ、じゃないと身がもたねーぜェ」
「貴方達のお陰で慣れたから別に構わないわよ」
「そうかそうか、ババァの適応力には毎回驚かされるぜェ、亀の甲より年の功とかい・・・」
「……あれは」
「ん？んん、あああ！そうだ忘れてた！！
あのな、よく聞け！オレ様が更にとっておきのなんともお得な情報を教えてやる！」

そろそろ次の取引相手がくるから早く済ませて欲しいと内心思い始めている。

「あのなァ、全く瓜二つのなーんかジトォとしたむっつり気味の双子の魔術師を見つけたらソッコー連行しとけ！
あいつら、マジでただじゃ済ませ……ンガッ！」
「……切るよ」
「分かったわ、葬儀屋にも一応ありがとう。とは言っておいてね」
「……了解」
「おいまて！一応ってなんだァ！オレ様のしんせ」

ガチャリ—



・・・と、
たしかそのときに双子の魔法使いを探せ。と言っていたが・・・
一応、探すだけ探して同行してくれるか聞いてみようと思う

ヒールの音を鳴らしながら、一人の眼帯にスーツ姿をした女性がこちらに近づいてきた

軽く一礼をすると、くすっと微笑した

　
トントン—と何度かつま先で地面を蹴ると、目を細めた