ネクター。紅き生命の花。

私達は、花の姿をした命を手に入れた。
『借りた』と言ったほうが正しいかもしれない。しかし、今この手にある。
これはこれから、私達の行くべき道を示してくれるものとなるだろう。



私達は。
言葉では言い表せない、こころというものを知ることが出来たなら。
たとえ言葉が無くなったとしても、互いの存在を分かち合うことが出来たはずだった。
私達は、歩き続けることが出来たはずなのだ。もしも、そうであったのならば。

私達がどうあっても、物語は終わる。終われば、最初から。

終わりの向こう側を知るために、終わりから始まらなければならない。
私達は、ここで命を得るのだ。そして、魂を得るのだ。


物語が終わっても、ヒツジが私の名を呼ぶことはない。
物語が終わっても、私達が出会うことはない。
物語の外では、ヒツジが私の名を呼んでくれるのだろう。
物語の外では、私達は出会うことができるのだろう。
私達は並んで歩いて、生と死を共にすることができるのだろう。
尽きることのないおしゃべりを、楽しむことができるのだろう。
くだらない、どうでもいいことを笑いながら話し合うことができるのだろう。

物語の外では、私達は、ささやかに、幸せになれるのだろう。

きっと。




私には、それは何の変哲もない花のように見えた。
それでも、それが美しいものであることだけは、確かに思えた。

今その時だけは、きっと、私達は同じ紅色を見ていただろう。




『手記：Eglantine』

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