ま　お…う
心臓が「ど　く　ん」って不自然に波打つのが分かった。
「魔王」という単語を認識した瞬間のこと。

『魔王パラダイス討伐への道は険しいのだ！！』
快活なルリアンナさんのほんの冗談。なのはわかっていて…

　　たおす…？そう…たおさなきゃ

鼓動が早くなる。ひどく頭が痛む。なに？？

　　いや、ちがう………たおしたんだ
　　そう、たおした。
　　わたしたち　　は、
　　たおした　んだ
　　まおう　を　たおして　それ　で？


憎悪　焦燥感　恐怖　使命感　…
とらえどころの無い感情が濁流のように押し寄せてきて何も考えられなくなる。

なに　これ

あ　　たま　　いた　　い　！！！


………


突然硬直したわたしをいぶかしむ風でもなく
あのふたりは次の参加者を相手にするためにむかったようだ。
どうやら「腕試し」は無事に済んだ。

変に、思われなかったかな…。
…とにかく動揺していた。こころが毛羽立っている。

とにかく
参加を認められたことだし、わたしも進まなくてはならなくて…
ひとまず群衆をはなれてふらふらと木陰にへたりこんだ。
一息ついてどうするか考えよう。ここは風もここちよい。

うん。ようやく落ち着いてきた。

さっきのはなんだったんだろう。わたしの記憶？？
でも、とてもじゃないけど「わたし」が体験した記憶には思えなかった…

困った。今は、一揆のことを考えなくてはならないのにこんな事では集中できない。
そうだ、それに…

仲間を募ったとして、こんな小娘と行動を共にしてくれる人なんているのかな？
もちろんここに知り合いなどいない。…途方に暮れる。

…と、不意に樹の上から声がした。

声の主は、風を纏ってふわりと降りてきた。よく見ると、エンブリオのようだ。

………

…彼は、「ディーシャ」と名乗った。
なんだかよくわからないけど、彼もついてきてくれるみたいだ。

　　こうしてわたしたちの物語は始まった。