「よぉし、いいだろう。ぜひ俺達の力になってくれ！」
「うん、いい線いってる！・・・・・よね？ラルフ？」
「おう！これだけ動ければ大丈夫だろう」

そう言って突進を止めたラルフ氏に対し、此方も刃を消す。
ルリアンナ嬢が脇から出て飛び上がってる様が見える。

「……まぁ、いい」

明らかに手応えがなさ過ぎる。
いや、刃の手応えではない。
ラルフ氏の実力としての手応えだ。

「人には手加減をするなと言っておきながら、とんだ狸だな」
「さぁて、何のことだ？」
「そうだよ、ラルフはどっちかって言うと熊じゃん！」
「そう言う話じゃねぇだろどう聞いても」

そのやり取りに軽く笑う。
とりあえず、ハバキを鞘に嵌めて収める。
彼らも気がすんだことだろう。

「それでは、もう用もないだろう。私は知人の下に行かねばならぬのでな」

これで退散することを告げる。
あえて主人とは言わない。
余計な詮索をさせる必要もない。

「そうかそうか、あのお嬢ちゃんもいい感じだったぜ？」
「……何？」
「心強い限りだ、よろしく頼む！」
「ちょっと待て、一体どういう」

嬢ならさっきまであそこで一人見て回って……。
そんなことを思っていたら花束を持たされる。

「これは……」

ネクターだ。
多分これから更に貴重になるだろう品。
そして、反抗の証とも取れる品である。
個人でこれを幾らもっていたところで高が知れているが
この人数にこれだけを配るとしたら、或いは……。
これは、本当に彼らの黒幕としての腕を改めなければならない。
いや、そんなことよりもまず……

「こんな物は受け取れない」
「あって困るような物じゃないだろ？むしろ、これから必要になる物じゃねぇか」
「いや、困るんだ」

私達はこの一揆に参加しに来たわけではないのだから。
いつか事を起こすとしても、それは我らであってはならない。
領民に戦わせる事になるが、そのあとの調停役としての立場がある。
もし参加するようなことがあったとして……それはもうどうしようもない状況になってから。
“負け戦”になると分かった時点で、と言う事になろう。

「よぉしそれじゃ行ってらっしゃい！バックアップは黙って私に任せんしゃいっ！！
　パパの行動力とママの分析力を兼ね合わせたプレミアムブレンドガールに死角はないわッ！！」
「おい、人の話を」
「……明らかに親父の血が濃そうだが……少しは母親の大人しさが欲しかっ……」
「黙れおっさん。さぁ次いくからねッ！！魔王パラダイス討伐への道は険しいのだ！！」

ラルフ氏が、あえて此方を無視した。
どうしても参加させる腹か。
此方を無視して、ルリアンナ嬢とラルフ氏は話を進めていく。

「あとこれ支給品！がんばってね！！」

と、急に此方に話が降って来た。
木材と鋼材か。
この世界の……というか、我々の世界も含まれてる分割世界は物作りが用意だ。
基本材料さえあれば、ある程度のものが出来てしまう……らしい。
他の世界に渡ったことはないので、ここの部分は伝聞になってしまうが。
食料は出来ないのがまた不思議な所だ。
そんなことより、これ以上反体制組織から施しを貰うわけにもいかない。

「だから、私は」
「悪いようにはならねぇって」

一際大きい声でラルフ氏が遮って来た。
その後、大きく伸びをしたかと思うと

「さてと、とりあえず一休みでもす……」
「はい次いこ次ぃ！！」

ルリアンナ嬢に腕を引かれて二人は颯爽と去っていった。

「……ふぅ」

さて、これをどうした物か。
別にこの場で置き去りにしたとしても、
他の参加者が有益になるだけで私達は全く困らないのだが。
そう思い、その場に渡された材料と花束を置こうとすると

「董琉ー、そっちも終わった？」
「……嬢、それを持つ意味が分かっているのか？」

それらをしっかりと抱えた嬢が此方へ小走りに寄ってきた。

「それってどれ？このネクターの束のこと？それともこれらの材料のこと？」
「どちらもだ、私達のここにきた目的は何だ？
　一揆に参加することではなく王を見に来たのだろう？」
「そうね、そうだったわ」
「ならば」
「じゃあ、私達は一揆に参加するべきよね」
「は？」

嬢は何を言い出すのか。

「だって、私達まだ新しい王様見てないじゃない」
「そうだが、しかし」
「これから王城に入って見に行くんならこの人達に紛れた方が絶対いいわよ」
「紛れるのと、参加するのでは」
「だって、紛れて入って行ったら一揆の人達と間違われるかもしれないでしょ？」
「間違われると言うか……まぁ許可を取って進むわけでもないしな」
「なら、備えあれば憂い無しじゃない」

ここで引き返す、と言う選択肢はないらしい。
全く、困った主君だ。

「それにね」
「……？」
「それに……どんなのが王様か現状じゃ全然分からないじゃない？それについていくのよ？」
「そう、だな」
「見ただけで判断がつくとは思わない、見てくれで判断できるとも思わないわ。でも」
「……」
「でも、領民の皆がただ辛い目にあうのなら、行って止めるわ。
　最後の手段だけど、それをこの先で判断したいの」
「簡単に言うな……この城は広大だ。また暫く旅を続ける事になるんだぞ？」
「それでもよ」
「危険なこともある。嬢が言ったとおり、城の者が襲ってくるだろうし、
　エンブリオだって大量に存在するだろう」
「大丈夫よ……だって」

嬢はギュッと杖を握って私を見据えた。

「だって、董琉がいるでしょう？」
「……まぁ」
「ついさっき、護衛の役を放棄した人が更にお仕事をしないつもりなの？」
「これは、耳に痛い話だな……一体何時の間に腕試しを？」
「え、ちゃんとしてたわよ。見てなかったの？」
「ああ」
「酷いわねぇ、ほんのちょっとでも私から目を離すなんて。護衛失格なんじゃないの？」

嬢はやれやれ、といった風に肩を竦めて見せる。
そこら辺を突かれると、何も文句が言えなくなってしまうな。

「これ以上虐めてくれるな、元々護身の心得があるにしても無事でよかったと本当に思っているよ」
「全くよ……これから、宜しくね」
「フゥ……」

溜め息を一つ。
まぁ、私が良い従者であるのならばなんとしてでも止めるのだろうが……。
残念な事に、私は“ただ”の従者でしかないからな。

「ああ、これからも貴女のお供を」
「よし、そしたらー……」

がさりと手持ちのネクターや材料を渡してきた。

「折角参加するんだもの、人数は多い方がいいでしょ？また声を掛けてくるわ」
「お、おい。私達は」
「大丈夫よ。皆そんなこと気にしないから」

私が気にするんだがな。
そういって、また人込みへと向かっていく。
嬢の自由な所は良い所だとは思うが……
少し思慮深さを持って欲しいものだ。
……いや、これは縛られない上に立つものの気概を身につけられていると喜ぶべきところか。
此方を慮ってくれたのか、あまり離れていない此方の目の届く場所で、
適当に幾人かに声を掛けているその姿を見ながら、苦笑を浮かべる。

「ちょっと、こっちよー」

と、左右の見知らぬ女性に挟まれるような形で、嬢が手を振ってくる。
荷物を落とさないようにしながらそちらへ向かっていく。

「手頃だしこのくらいの人数がいいんじゃないかな？」
「うん？」
「ほら、回りの人。大体４人前後っぽいのよね」
「ああ、隊伍の人数か」

小隊、と言うやつだろう。
確かにこれくらいの人数の方が動き易い。
それにしても、よくも得体の知らない者の誘いに乗ったものだな。
どういう思惑があるのか……。

「……連れが失礼を。紹介は？」
「ああ、私の分だけ終わってるわ。そういえば言っとくべきだったわよね」

いっけない、と言って嬢が笑う。
まったく……。
さて、どう挨拶した物か。
嬢がなんと言っているかが判らない分難しいな。

「まぁまぁ、構いませんのよ？まだ先はありますでしょうし、ゆっくりとお互いを知っていけば。うふふ」
「そうか、そう言って頂けると助かる」

黒い厚手のドレスを身に纏った女性が笑って許可を出す。
多少胡散臭さの漂う風貌だな、そう感じた。

「お嬢ちゃんも、そんなにお固くする必要はありませんのよ？」
「……いえ、私はこれが素なので」
「あら、そうでしたの？ご一緒なさってるのに未琴お嬢ちゃんとは随分違うのね」
「ええ……」
「まるで、姫と騎士みたいね。くふふ」

普段通りにしすぎたか。
周りにばらさないようにと言っておきながら自分からこれでは意味がないな。
しかし……そうか、嬢はそういったのだな。

「……そんなことはないさ。私は董琉、未琴とは幼馴染だ」
「あら、そうでしたの。未琴ちゃんに董琉ちゃんね」

そう言って、口元だけで笑う女が楽しそうに確認する。
油断できない相手だな、と思う。
あえて名前で紹介を出す。
下の名前は呪術で縛られることもあるが家柄を隠すには丁度いい。
また、自分が嬢の名前を口にしたことで関係性も隠れるだろう。
案の定、女性は多少つまらないと言う印象を受けたようだ。

「では、私も……“Pappet-Maker”と」
「そう呼ばれるのが希望なのですか？」
「ええまぁ」
「ふーん、偽名みたいね」

明らかに本名を隠しているのだが、まぁそこは言わないで置こうか。

「うふふ、呼びにくければマリア・ジョアンヌと……どちらでもお好きな方でお呼びになって頂戴ませな」
「なんだ、ちゃんとした名前があるんじゃないの。それじゃマリア、宜しくね」
「ええ、宜しくね」

用意されていた名前だろうな。
そう思う。

「失礼だが」
「何かしら？」
「あなたはこの世界の？それとも外から傭兵として来られた方か？」

彼女は、雰囲気が違う。
別にそれ自体が悪いわけではないが、情報としては知っておいて損のある物ではない。

「あら、あら……そう見えますの？」
「……いや、いい。不躾な質問を」
「構いませんわ」

こういうのは即答が得られないならば掘っても仕様がない。
とりあえず、軽く会釈を送りもう一人に向き直る。

「…………」

先ほどから直立不動のままである。
変わったところがあるといえば、人ではない。
頭部に犬の耳が生えているからだ。

「あの……」
「答えてやれ、[仔犬(Little)]」

急に、脇から声がかけられる。
そこには車椅子に座った大柄な男性が居た。
少し離れており、全く関係のない方向を見ていたため関係者だとは気付かなかった。

「Yes, Sir」

女性はその場で姿勢を正し、敬礼を男性に返すと再度こちらに向き直る。

「宜しくお願いします。Ms.ジョアンヌ、Ms.ミコト、Ms.トール」
「あ、ああ……」
「貴女は、リトルって呼べばいいの？」
「構いません」
「失礼だが、あちらの方は？」
「Sergeant」

そう言って、またも男性に向き直る。

「構わん、休め。これから世話になる」

そういって、男性……Sergeantはこちらに身体を向けた。

「ねぇ董琉……Sergentって」
「ああ」
「将軍とかのことよね」
「いや、それはおっきすぎるだろ」

ド真面目な顔をしてその顎に手を当てて言う嬢の肩を裏手で叩く。
まぁうん、横文字は言い馴れないしな……。

「確か、曹長だか軍曹あたりだったはずだ」
「軍曹が正解だ」
「なんだそうなの……えーと、軍事的に偉い人よね？」
「……まぁ、そうだなぁ」

嬢は一体どうやってこの面子を集めたんだろうな。
一癖も二癖もある寄り合いだが……さて。