ざくり——ざくり———

　ざくり——ざくり———

　ありすちゃんは大声を上げて手に持っていたスコップを投げ捨てた。目の前には人間の子供一人がようやく入れる程度の大きさの堀りかけの穴が出来ていた。

　この世界でしばらくありすちゃんと一緒に行動してた2人はいつの間にか消えていた。別に寂しくなんてちーっとも無いんだけど、ありすちゃんに一言も言わないなんてゼッタイゼッタイ失礼よねっ。

　それもこれも、全部あの変な男のせいだ。急に話しかけてきた"ディエス"と名乗った謎の男、彼はありすちゃんのことをまるで舐め回すようにジロジロと見た後、何か一人で納得したような顔をして"これ"を渡してきた。

　男の話によると、この時計を使えばこの辛気臭い世界から脱出出来るらしい。一応脱出を目的に旅をしていたありすちゃんとしては願ったり叶ったりの素敵アイテム…なんだけど。

　そう、あの男はありすちゃんにとってある意味その時計よりも驚きのものを置いていった。この"身体"だ。
　この変な時計を渡された途端気絶させられて、起きたらこんな身体になってるんだもん。さすがのありすちゃんもびっくりだ。

　とはいえ、この身体に不満があるわけではない。むしろ凄くいい感じだから逆に腹が立つのよねー、まるで私専用に作ったみたい。

　……いやでもさすがに気持ち悪いかなー。今度会ったらやっぱりオシオキだ。

　まぁそれ置いといて、とりあえず折角新しい身体を手に入れたんだし何か今までに出来なかったことをやろー！……って考えて、とりあえずまずは大きな落とし穴を作ろうとしたんだけど…。

　まったく気が利かないよねー？ありすちゃんも頑張ってみたけど、あんまり思ったほど大きな穴は掘れなかった。これじゃあせいぜい子供一人分だ。

　そう言って取り出したのはそう、男に渡された時計だ。世界を渡れるっていう優れもの。

　驚く人間の顔を想像しただけでもうありすちゃんはもうご機嫌だった。ぇ、折角貰った時計を使っちゃっていいのかって？いいのいいの、だってあんな変な男…ストーカーが置いていったモノだもん。ゼッタイゼッタイ変なところに飛ばされちゃうに決まってるよね。だから穴に落ちたお馬鹿さんに、ありすちゃんの代わりに行って貰っちゃおう。

　手元にある"元身体"のぬいぐるみ、アリス。よく見ればボロボロだし、持っていくには結構邪魔なんだけど…さすがに捨てるのはちょっと気が引けるよねー？

　うん、もふもふだ。悪くない、さすが元・ありすちゃんだ。ありすとアリスを合わせたらもう向かうところ敵なしよね！これは今回のイタズラ成功間違いなしだー。
　ありすちゃんは成功を想像しながら、上機嫌で木陰へと身を隠した。

　駄目だ、誰も引っかからない。さっきから人はたくさん通ってるんだけどなー、何でか全然ひっかかってくれない。

　よく観察してみると、みんなチラチラ見てはいるんだけどなー。

　そう考えるとどんどん気になってきた。ちょっと確認してこよう。

　後ろの方から何人かの喋り声が聞こえてきた。新しい獲物と言いたいところだけど今は穴の確認の方が大事だ、我慢しよう。

　
　ドンッ！！

　ドサッ！！

　気づいた瞬間にはもう蹴飛ばされ、自分で作った落とし穴に突っ込んでいた。

　顔から地面にぶつかる！…と思った瞬間、目の前にまで来た例の時計が急に光り出し視界が歪みはじめた。そこでありすちゃんの意識は途絶えた——

　ドーン！ドーン！！

　ようやく目が醒めると、そこはさっきまで居た場所とはまるっきり違うところだった。自然豊かで、地面にも生命力を感じる。

　アリスよし！お財布よし！刃物よし！時計……。

　ドーン！ドーン！！

　いいい、いま頭のすぐ横を銃弾みたいなのが通っていったんだけど！？というかよく見たらちょっと向こうの方で誰かが戦ってる？それも一人二人じゃなくてたくさんの人が、何か随分物騒ね。

　服の中から一つの小さな箱を取り出す。ありすちゃんは戦場の方に近づくと、少し離れたところに居る人間にその箱を投げつけた。

　男の前で突然、箱が爆発した。その中から明らかに入りきらない大きさのぬいぐるみが飛び出し、男に襲いかかった。

　この世界の情報も欲しいので男から話を聞き出したくもあったが、とりあえずもう少し楽しみたいかなー。ありすちゃんはあと少しだけこの状況を眺めることにした。
　数分後…。

　ありすちゃん人間は大っ嫌いだけど、でも相手から勝手に人間じゃないって決めつけられるのは何かムカつく。今は折角こんなに人間に近い姿もしてるのに、まるで死体って言われてるみたいでヤダ。そうだ、ありすちゃんここでは人間のフリをしよう。それでついでに性格も人間が油断しそうな思いっきり清楚な感じに演じて、騙された人間を片っ端から罠にハメてやるんだ。えっと、清楚系の口調っていうと…。

　よし、騙されてる騙されてる！さすがありすちゃん、演技も完璧ね！

　何コイツ、自分がちょーっとこの世界のこと知ってるからってナマイキ！！もう一度オシオキされたいの！？

　突然、地面から小人のようなものが出てきた。しかしちゃんとした実体が無いのか、身体が透けている。

　男がそのネクターという花を見ながら渋い顔をした。

　何か面白そうなことしてるじゃない！！ありすちゃん大好きよ、そーいうドロドロした感じの話

　ありすちゃんは男に言われたテントへ向かった。何だか楽しくなりそうな予感がする！

少女と異形が何やらごちゃごちゃと話している。
暫くすると、少女の方がペカ(゜∀゜)ペカしながら近付いてきた。