「寝る場所がありません」

夢路が深刻な顔で言う。

『寝る場所などどうとでもなるだろう。外に手頃な立木があったぞ』

夢路とは対称に、呑気な声が返ってくる。

「ふざけないでください。女の子に外で寝ろって言うんですか」

こちらの世界に来て何日か。一揆参加者と言うことで食べ物には困らないものの、一度に大量の人間が一度に流れ込んできたことで宿はどこもいっぱいの状態だ。

「次は町のはずれの方の宿をあたってみましょうか」

宿は見つからなくても歩き回れば腹は減る。何はともあれ、と言うことで宿の食堂で少し遅めの昼食を取りながら次の行動を検討する。

『どうせどこへ行っても同じような状況だろう。外で寝るのが嫌ならその辺の男を引っかけて寝る場所を提供してもらったらどうだ』

「……それだけは死んでも御免です」

心底嫌そうな顔で答える。

『ふん。なら、知り合いにでも頼るんだな』

その言葉と共に夢路の視線が店のカウンターに向く。そこでは店主と客と思しき金髪の少女が何やら揉めていた。
夢路はその内容には興味がなかったが、金髪の少女が自分と同じ制服を着ていることに気が付くと慌てて目を伏せた。

(何でこんなところに二階堂の生徒がいるのよ……！)

面倒事に巻き込まれるのは嫌だし、何より自分の過去を知っているかもしれない人間にかかわるのは出来れば避けたい。
このままやり過ごそうと思っていると、夢路の体が彼女の意思に反して立ち上がる。

「何してるんですか」

『あそこで話してるのは知り合いだろう。話しかけてみたらどうだ？』

面白がっているような声と共に夢路の体がカウンターに向けて歩き出す。

「ちょっと、勝手なことしないでください」

必死で歩みを止めようと抵抗するが、暖簾に腕押し糠に釘。
間もなく夢路は、店主と金髪少女の元に辿り着く。

「あれあれ？　その制服、もしかしてあなた二階堂学園の生徒さん？」

夢路に気が付いた金髪の少女が話しかけてくる。

「ええ、まあ……」

その反応にどうやら自分の事は知らないようだとややほっとしつつも、警戒は解かないままで答える。

「いやー、助かった！　宿が見つからなくってさー。同じ学校のよしみだし、あなたのお部屋に泊めてもらえないかな！？」

この少女は警戒と言う言葉を知らないのか、それともただ能天気なのか。脳内お花畑のような彼女の言動に呆れながらも夢路は現状を伝える。

「私も泊まる場所が見つかっていませんが……」

「ええー！？　うわー、そのパターンは考えてなかったよ……」

頭を抱えてしゃがみこむ金髪少女。
それを見てどうしようかと思案する夢路。

宿無しが2人集まろうと、状況は好転しないのだった。