空蝉—

祖母の手が、泣いていた私の頭を優しく撫でる。

「—…そう。怖かったもんねえ。おばあちゃんに教えてくれて有難うねえ」



当時六才であった頃の私。

その日は、父と、母と、姉さん達。家族全員で祖父母の家に遊びに来ていた。
私は姉さん達が家の中で遊んでいる隙に、一人で庭に遊びに行った。
庭の巨木は立派で、祖父が大事に手入れをしている木だ。

「—ん、しょ…っ」

懸命に私は背を伸ばし、ジャンプをして試みる。
しかし、指爪から一メートル先にある蝉の抜け殻には手が届かなかった。

—届かない。

ふつふつと目先の物に欲求心と探究心の感情が沸き上がる。
木が生えた割れ目の間に素足を掛け、木を登り、片手を精一杯に伸ばした。

—あとちょっと、もうすこ、し…。

「やったぁ！とれた！」

だが、同時に足場を崩し音を立てて地面へと転がり落ちた。
さらに木の枝をへし折ってしまい、叱られると思っていた。
祖父がこの枝を見て悲しむと思い込んだ。涙が止まらなかった。

「おばあちゃん、ごめんなさい…、ごめん、な…さい…ッ…
　ぼく、悪い子だよね…、おかあさんとおとうさんにも怒られる…よね…」

「……大丈夫。おばあちゃんが見てたから。
　叱られるのはおばあちゃんの方。たっちゃんは気にしないでいいの」

静かに祖母の腕の中で抱き寄せられる。

—ねぇ、おばあちゃんはどうしておこらないの？どうして？
　この木には かみさまがいるって、前におじいちゃんがいってたよ？



・・・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


「すみません。家に残した祖母が、少し気掛かりで…」

帰りを待つ祖母が気掛かりであると、大楠様に伝えた。
こんな願いを託してしまうことは、間違っているのだろう。
何故、神は私を見守っているのだろう。

—私は、…偽善者だ。