目が覚めたら草原にいた。
何か重大な任務を受けてこの地にやってきた……
というのは覚えているのだが、どうもここに来る以前の記憶がない。
正確には断片的にはあるのだけど、ここに来た理由に関してはさっぱり覚えていない。
とりあえず自分の姿を確認する。……どうやら自分は犬らしい。
確認した後で自分が何なのかすらわからなかったのか、と我ながらあきれてしまった。

自然と語尾に「にゃ」をつけてしまった。
「ああ、『昔』は猫だったんだにゃあ……」
よくわからない理論だが自分でそう納得してしまった。
だがにゃあと鳴く犬は変だろう。なるべく意識して使わないようにしよう。
別の世界からやってきた、というのはなぜか確信が持てるが、
ここがどこなのかはさっぱりわからない。

困ったボクはその辺りにあった休むのにはちょうどよさそうな岩に座り込んだ。


少し経って。

いろいろと考えてみる。
もしかしたらボクはただの空想に耽るのが大好きな犬で、
こんな設定もただの妄想なのかもしれない。
うん、きっとそうなんだろう。
にゃあというのも猫にあこがれてたか、前世が猫とかもうひとりのボクが猫とかそんな感じの

不意に声をかけられて思わず叫びそうになったのをぐっとこらえた。
どうやら見た感じ女の子らしい。
落ち着け、落ち着いて……よし、冷静に、クールに答えよう。

しかし彼女は話を続けてくれた。

困った。どうやらここに来て少し日が経っていたらしい。その試験とやらもボクは受けてパスしているようなのだ。
つまり彼女はボクの知らないことをいろいろと知っているのだろう。
出来ることならぜひ同行したいところだけど、ここで
「ハイ、ぜひ一緒にいかせてください！」
とすぐに返事してしまうのはマズい。ちょっともったいぶった方がいい。
駆け引きとはそういうものなのだ……と昔本で読んだ気がする。

よし、クールに決めた。

よしよし、不安そうな表情だ。
これでこの駆け引きでボクは彼女よりも上の立場に立てている。
あとは少し時間を置いてから条件を提示して……

……しまった。条件を何にするか考えていなかった。

やばいやばい。この子早く言わないのって感じの顔してきてるし！
なんでもいい、えーとえーと……そうだ主従関係！
ボクが上の立場に、ってなればいろいろと楽になるはず！
おーけーおーけー。これでいこう。

既にクールさゼロである。いや、最初からなかったのかもしれないけど。

よし、完璧だ。これで主従関係がはっきりした。
記憶はないけど徐々に戻っていくだろうし、しばらくは彼女との冒険を楽しもう。