ジャッ、ジャッ、と小気味良い音を立てて、
カードがシャッフルされていく。
僅かの折れや曲がりもない、紙製のトランプ・カード。
それが目にも止まらぬ速さで鮮やかに宙を舞う様は、
否応無しにその席につく者の気分を高揚させる。

「ショウ・ダウン」

テーブルにディーラーのコールが響く。
そしてゆっくりと手札が開かれ…——

若き二人のギャンブラーは、思わず声を失ってお互いの顔を見合わせた。


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「ッあああああああああっ！納得いかねええええええ！！」

——それから数刻の後。
宿に戻るや否や、それまでの不満をぶちまけるようにジャックは拳を振り抜いた。
ガシャーン！という音を立て、室内にしつらえられた高価な調度品達が
見る見るうちに無残な姿となっていく。

「ジャッキーちゃん、落ち着けって」
「うっせぇ！これが落ち着いていられるかってんだよ！！
俺達は！今日！！この日まで！！一日だって負け越したことはなかった！！！！」
「ジャック」
「っつーのに何だ！今日だけでいくらスッたんだっつーの！！家が一軒軽く買えるぜ！？
おっかしいだろちっきしょうが！！」

そう言って今度は壁を殴る。
アンティークの燭台がぐらぐらと揺れ、今にも落ちそうな程に傾いた。

ブラックはひとつ溜息を吐くと、完全に頭に血が登りきっている相棒の
ブロンドのポニーテールをぐいと引っ張った。

「いって！！ッにすんだよ！！」

首がゴキリと音がする程に傾いて、ジャックは非難めいた声を上げながらブラックを見た。
対するブラックは表情を変えず、淡々とした視線を向けている。

「落ち着けって言っただろ。二度も同じことを言わせるなよ。俺の言うことが聞けないのか？」
「つーか何でお前はそんなに落ち着いてんだよ！悔しくねーのかよ！」
「ジャック。…三度目まで言わせる気か？」

薄青の瞳が、火照りを冷ますように静かに瞬きを繰り返す。
ジャックはぐっと言葉に詰まると、そのまま苦虫を噛み潰したような顔でがしがしと頭を掻いた。

「ったく……何だってんだ…くっそ！！！！」
「お前がそんなに悔しがる道理はないさ。
俺達は負けるべくして負けた。ただそれだけなんだから」
「はああぁ？」

何言ってんだお前、と言いたげに崩れた表情を、にこり、と笑顔で押し留めると、
ブラックは床に散らばったトランプカードを拾い上げながら、至って事も無げに言葉を続けた。

「だからさ…わかるだろ？《チーティング》だよ。
——要は、俺達はイカサマでハメられたのさ」

そう言って、あたかも何もない空間から出てきたかのように
するりと掌からジョーカーの札を取り出して見せる。
——《パーム》というチート・テクニックだ。

「……マジかよ。そんなんする必要があんのか？このご時世、ンなもんやるだけ損じゃねーか」
「そう。そこだよ。その思い込みが『穴』なんだ」

まさに唖然、といった顔をするジャックの頬を、
抜き出したジョーカーでぺちぺちと叩きながらブラックは続ける。

「世間一般に営業を認可されている、いわゆる合法カジノが出来てしばらくになるけど、
山とあるカジノ犯罪のうち、そのほとんどはプレイヤー側によって行われるもので、
店側の不正はほとんどない。…なぜだと思う？」
「そりゃバレて営業できなくなったら困るからだろ」

ジャックが答えると、その通り、とブラックはしたり顔で頷いた。

「そう、そもそもそんなリスクを侵さなくたって、
元々ギャンブルっていうのは殆どの場合、胴元の方が儲かるように出来てるんだよ。
プレイヤーとディーラーの勝率ってのはイーブンじゃないんだ。
つまり、『ハコ』さえあれば何もしなくても金が入って来る。
カジノってのはまさに、金の卵を産むガチョウなのさ。
そんな宝を一瞬で失うような真似は、絶対に避けなけりゃならない」

ここで言葉を一旦切ると、ブラックは懐から煙草を取り出して口に咥えた。
細巻の軽いメンソール。対するジャックは風味の強い黒葉の煙草を好む。
こんなところの好みまで正反対だ。


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※以下、ジャック(ENo.1597)の日記に続きます。
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