旅は道連れ世は情け。いい言葉だと思う。もっとはっきり言ってしまえば、体のいい言葉だ。
　まぁ、つまるところそういう事なのだろうな、と前を歩く二人を見ながら、シノは両手一杯に抱えたプリントの下で苦笑いをした。
　睦月くんはいい子だ。それは見れば分かる。しかしその後現れた彼——シャラは、なんと言うか色々と癖のある人物のようだった。
　……うまく、やっていけるだろうか。
　自身も学内では変人奇人と呼ばれていたが、あの学校は変人奇人の巣窟であったし、それに比べればシノのビブリオマニアぶりなど可愛らしいものだ。

　——そんな事を考えているうちに、目の前が段々とひらけてくる。
　草がそよぐ。風が凪ぐ。暫くうっとりと草むしたにおいを堪能していると、先行する二人がいつの間にやらシノの方を見て、揃いも揃って怪訝な顔をしていた。

「……あれ？」
「いや、あれってシノさん、大丈夫？」
「お前はもう少し前を見たらどうだ」
「前……あっ！」

　シャラが指し示した前には、ちんまりとした猫が三匹、二足歩行で立ったままこちらを見つめていた。
　間違いない。妖精の一種、ケット・シーだ。

「わぁ、ここでもお目にかかれるなんてうれしいなぁ、ケット・シーだ！」
「あぁもう、シノさんいいから！　杖構えてって！」

　どうやら、彼らは「敵」らしい。
　残念だ。出来うる事なら近くまで寄って、色々なところに触れて、ありとあらゆる方法でその生息について調べてみたいものだが、どうやらこの雰囲気ではそれも許されないようだ。

「やれやれ……。妖精を撃破とは、専門家としては心が折れるね、『トトー』」

　小脇に抱えたままだった杖にそう呼びかけて、シノはバンドで括った本を脇へ置いた。
　こうしておけば、常に彼の周りとひらひらと飛んでいる小さな友人達が、頑張って戦闘に影響のない場所へ資料を避難させておいてくれるだろう。

「仕方ない。彼らの魔術防御力についての考察でもするとしようか」