ナンテ＝リオルグランテ＝キーンが育った世界、オウミーン。

　平々凡々な世界である。大きな大陸が１つ、その面積の1/6を占める巨大な湖。特筆すべきことは何も無かった。湖の世界、と呼ばれる程度。唯一複数の世界の通り道ではあった。

　そんな世界で叩き込まれたのが情報の重要性。

　既に動き出している者は多い。

　耳聡き者は風を捉えエンブリオの分類を終えているだろう。
　眼鋭き者は地形毎の生態を分析しているだろう。
　力のある者は人を従え生産集団を形成しているだろう。

　ならば。

「人脈の構築、ですねェ」

　野望を滾らせるも力が無くば話にならない。当面女を保護しつつ味方につける必要がある。どうせならば目的により近づく形が良いだろう。その為にはある程度己を律せねば。

「まあ、仕方がありません」

　口角を吊り上げ不敵に笑う。男のイメージでは、だが。猛獣は最後の瞬間まで其の爪を、牙を隠す。まだ宴は始まったばかりだ。焦る必要は無い、と言い聞かせるのであった。



「それで、我輩の寝床はどこであるか」
「本ならどこでも寝れるでしょうがッッ！」

「わん、わんっ」
「さっきエサ投げたでしょうこの駄犬」


　仮面を被っても全くサマにならない環境が最大の悩みである。

テントから周囲に気を配りつつ、帽子を脱ぎ仮面を着けては外す動作を繰り返している。

時々にへらと笑う。どうやら手篭めにするプレイの練習らしい。
己の頬や額に跡が残ることには気づいていない。

暗いテントの中に首を突っ込み独りでなりきる男であった。

おずおずと見上げている。どこか胡散臭そうだ。

特別に探していたわけではないが、宣伝の為に声をかけている商人を見かけ、
先ほどの商人である事を確かめると、声をかけた。

そう言ってみたが、特に何を察したわけでもなく、適度な距離で話しを続ける。

悩んでいると、先程の商人と名乗る男の姿を見つけ駆け寄った。

自分の財布を覗き込み落胆の表情を浮かべた。

——不意に声をかけられ、金髪の少女と犬耳の少女は一緒に振り向いた。

その姿に、一瞬金髪の少女は怪訝な表情をしたが、
もう片方の犬耳の少女は警戒も無く口を開いた。

大きな荷物を揺らしながら、じっとあなたを見ている。

商人である——と名乗られ、
なるほど、不意に声をかけられたのは商売の為だろうかと合点がいったのか、
金髪の少女も多少は警戒心を解いて口を開いた。

まじまじとあなたを見つめる少女。
畑は違うかもしれないが、同じ商売人同士興味があったのか、
何を扱っているのか訊こうと思ったようだが——

そそくさと立ち去るあなたに、彼女は呼び止めるヒマもなかったようだ。

男のほうは商人を一瞥しつつも「結構です」と事務的にそっけなく断った。
一方少女のほうは興味津々と言った様子で商人をガン見している。

〜　後ほど、どこか別の場所にて　〜

ナリキン氏に気づいた小娘がとてとて駆け寄ってきた。
連れの男は黙ってその後をついてくる。

少女の無垢な視線がナリキン氏の怪しい垂れ目・持ち物の間を往復する。

連れの男は一揆開始早々疲れているようだった。

微妙な距離を残したまま笑みを浮かべる男に不快な視線を向けシエラは思う

正直、切り捨ててしまいたいという欲望はあるが5日目まではそういうことは自重するといった誓約がなにやらあるようだ