集合場所へやってきた私は、まずその人の多さに驚いた。王に対して不満を持つ者は少なくはないだろうと思っていたが、実力行使とも言えるこの行動に対して、これ程の人間が集まるとは。
　決して狭くはない場所だ。それでもこの人数は収めきれないらしく、共に来た筈の姉様とはあっさりと逸れてしまった。
　それ自体は特に恐れるべき事態ではない。私とてもう18だ。迷子程度で泣き叫ぶような子供ではないし、何より何をすべきかを知っている。

　人の波は一箇所へ向けて進んでいた。その先にはルリアンナという麦藁帽子を被った若い女性とラルフという屈強な男性が居た。
　彼女らの居る場所へはまだ遠く、言葉は断片的に漏れてくる程度しか聞き取れないが、どうやら力試しをしているらしい。
　力の無い者は無用に血を流し命を落とすだけだ。そういう事なのだろう。そして、それを隠さず言うあたりにあの王へ反抗するという事の難しさが見えてくる。
　王は一般人ではない。当然守備隊も居れば近衛兵だって居るだろう。そういう場所へ私達は殴り込むのだ。相応の力が無ければただ蹂躙される事になる。

　人の流れは徐々に徐々にと進んで行く。その遅々とした動きに苛立ちを覚える者も居るのは当然の事だろう。其処此処で小さな諍いのような物が起きていた。
　私のような小柄な人間は、巻き込まれたら脱出は叶わない。そちらを避けるよう人混みを移動していると、人にぶつかってしまうのはこれも当然の事だった。
　昆虫のように頭を下げ謝りどうにか怒りをおさめて貰ったが、やはりこの人混みだ。再びトラブルに見舞われた。

　もっとも、そのトラブルによって私は得難い同行者を得る事に成功したのだが。

　私の袖には、リント領の紋が刻まれたボタンがついている。これは身分の証明であると同時に、所属を示すものだ。
　そのボタンに、彼女の髪が引っかかってしまったらしい。痛ッ、という声でそれに気がつくあたり、私も抜けている。
　慌ててボタンから髪を外し、本日二度目の謝罪を伝えるも、彼女は応えない。
　おそるおそる顔を上げると、彼女はなにやら考えているようだった。暫くして開いた彼女の口から出た言葉は、

「お前はリンテントポーゼの人間なのか」

　という事だった。
　素直に応えるべきだろうか？ここで素直に答え要らぬトラブルを招くのも良くは無い。
　だが隠した所ですぐばれるだろう。そうだと答えると、彼女は笑顔——それも、獰猛な——で私の肩を抱き、同行者は決まっているのか、などと矢継ぎ早に質問を繰り出した。

　暫くその質問の嵐は続き、やがてその嵐から助け出してくれたのは、私を探していたらしい姉様だった。
　どうやら姉様は彼女を知っているらしく、経緯を伝えると頷いて同行を提案してくれた。

　彼女はマシリー・ラヴォーク。
　過去に何等かの事由があり、その為リントに縁ある人だった。

相手に向かって、ひらひらと軽く手を振る。

味方側の面々を見渡す