2日目 猫の貴族とアニマ（前編）
　男爵と旅を始めたぼくは海を二度渡って六つの国を訪ねた。
　とても早いペースだと思う。
　その間も男爵は昼間はいろいろなところを訪れて、夕方には帰宅して、書き物を始める。そんな毎日を送っていた。
　ぼくはというとその間、男爵の荷物持ちをしたり、宿の手伝をしていた。
　「働けるうちに働いておきなさい」と男爵が言ったからだ。ぼくも思ったので、頑張って働いた。
　おじいちゃんから貰った金剛石はなるべく使いたくなかったんだ。
　もちろん、その程度だと足りないとは思うのだけど（ぼくの家が宿だったから何となく分かる）、その分は男爵が出してくれた。最初は遠慮したけど、男爵が「遠慮ばかりするのはよくない」と言ったので、男爵に出してもらうようにした。もちろん「ありがとう」とお礼を言った。すこし気後れしなのだけど今、ここでぼくが言う言葉は「ごめんなさい」ではないのだと思う。

　その間、ぼくはお仕事以外にその国の文字を覚えたりしていた。
　それと、男爵の真似をして文字を書いている、今日あったことを日記にしている。
　一度、男爵のノートを覗いたけど、なんだか違った。あっちは少し難しい。
　男爵に感想を言ったら、「これはこれで、少年のそれはそれでいいのだ」とかいったから、良いのだろう。
　




　ところで、今日あったことを忘れずに書いておきたい。
　おきたい、なんて書いてもそもそもぼくの日記なのだから自由に書いていいはずだけれども。
　今日はアニマのエンブリオに出会った。
　エンブリオってどんなものか、ぼくにはよく分からない。
　今いるメルンテーゼという世界独特のいきものだって、男爵は説明してくれた。
　世界なのに独というのも変だけど、まあいいや。
（日記はここで途切れている）