ここに我輩ことニャンダモン様の記録を残す。
俗に言う“ヒトもすなる日記というものを猫もしてみんとてするなり”といったところである

“猫の手も借りたい？お任せあれー”
大男との戯れあいを終えると、赤毛のお嬢ちゃんからささやかな献上品を受ける。
ほんわかぱっぱと話を済ませるや否や、ヤツらはサッサと他の連中のもとへと走る。忙しい連中だ。
かくして我輩も過激派どもの仲間入りしたわけである。

猫の手も借りたいとはよく言ったもので、ヤツらは見境がない。
ヒトはもちろんのこと、見るからに獰猛な生物、言葉が通じそうにない化け物ども、そして我輩のようなか弱き猫ちゃん。
まるで商売女のように誰かれ構わない姿勢で、一揆を持ちかける。
暇なのか、よほど“ねくたぁ”が大切なのか、我輩にはわからない


太陽が西に傾き始める、すなわち午後のオヤツの時間。
どうやらお昼寝をしてしまったようだ。
お昼寝は、我輩の体調を整えるのに大いに効果的である。

あたりを見回すと、雰囲気の変化に気づく。
騒然とした空気はどこへやら、他の連中はとっくに出かけてしまったようだ。
ポツンと一匹残された我輩。どこへ行けばいいのやら。

我輩は驚愕した。突如現れた猫ちゃんが我輩に語りかけてきたのだ。
ヤツは“えんぶりお”と名乗り、また、我輩をその契約者だと告げた。
もちろん契約した覚えなど無く、このマヌケな猫ちゃんの勘違いであろう。

“えんぶりお”。この世界に住まう化け物どもの俗称である。
契約した者にその力を貸与することができる不思議な化け物で、この世界の住民どもはそれによって生きながらえている。
便利な化け物であるが、ヤツらは契約者の生命力を餌にする。

そんなことはどうでもよいのだ。そう心に言い聞かせる。
方向音痴たる我輩は、ヤツに頼るしかないのだ。
ヤツに道案内を頼み、長い道のりを行くことにする。

ヤツに導かれるがままに歩を進める。
歩き始めから数十分、ようやく我輩は“平原”に到着した。
“平原”。名前とは裏腹に荒れ果てた大地が目の前に広がる。
ここに来る連中はどうやら物好きだけらしく、王城前にいた一揆衆どもの数も多くない。
平原というよりも砂漠の名が相応しいその場所は、太陽の熱をより一層身に感じる。
これも王の暴政が成す業か、空気の美味しさが微塵もない。
突如、ヤツがアッと声を出す。
ヤツを睨んでやるとその表情は照れ臭いやら、開き直ったやら、なんとも言えぬ表情でこちらを睨み返す。

ヤツもまた方向音痴であったようだ。
我輩はしてやられたのだ。忌々しいカワイコちゃんめ。

フルートの音が聞こえる…