一揆に参加するために、とりあえず爺さん婆さんに教わった通りに王城前に来た訳だが結構な人集りだった。
まあそりゃあこの世界の民が王に対して反乱をする訳だしな……このぐらいの規模は当然ではあるのか。
しかし何だ、人間もいれば人外も普通にいるし何か見慣れない格好や武器持ったのもいるし……。
他所の世界からも増援を頼んでる、ってのはどうも比喩や冗談じゃねぇらしいな。

とりあえず取り纏めをやってるらしい奴に声をかけて参加する旨を伝えたら実力を試す、だとよ。
まあ多少予想はしてたんだが……しかしあのラルフってオッサンも随分とタフなもんだぜ。
話によりゃあ二千人近くだかそれ以上だか集まってる奴等を一人ひとり相手してたって事だしな。
あのオッサン一人いりゃ、王城ぐらい一晩で攻略できるんじゃねえの？
……いや、まあ冗談だぜ冗談。

何にせよ、無事に試験とやらはOKをもらえたから良しとするかね。
とりあえずは

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　そこまで書き終えて、俺は顔を上げた。
　ちなみにココは王城前じゃあない。手入れの行き届いたやたらと広大な庭の只中である。

　あの試験を終えた後、一揆への参加者は皆それぞれに思い思いの方向から王城へと向かって進撃を始めていた。説明を受けた内容が確かならば、王城前から城までの間はかなりの距離がありその間には森やら河やら砂地やら山やらが控えているのだという。呆れたもんだぜ。どんだけ広いんだこの敷地。城の周りだけで小さな国ぐらい入るんじゃねぇのか？　ガチで。
　何にせよ遠くに見える城まで辿り着くにはこの敷地を抜けていかなくちゃいけない訳で、さてどこから攻めるかと悩んでいたのがちょっと前の事だ。

　日記に記録するために過去を振り返っていた俺は、そこまで思い出した所でちょっと胃が痛くなる。
　いや、…何というのか……そう、色々あったんだよ……本当、色々とな。







　例えばアレはラルフのオッサンの試験が終わった後の事だ。

　何といえばいいのか。
　とりあえず珍妙な代物に声をかけられた。



　やたらハイテンションに声を上げるそれは、どう見ても『生き物』というよりは『生物（ナマモノ）』というヤツで、俺の認識が間違いないのならば野菜のにんじんに似ていた様に思う。……いや、この世界のにんじんが須らく嗚呼いうものだっていうのなら俺の認識違いなのかもしれないんだがな。
　ソイツは、大きさだけで言うなら普通のにんじんなんだがやたらと毒々しい斑点が目立つ変わったヤツだった。いや、それだけなら「変わったにんじんですねカビでも生えてるのかなハハハ」と笑って流せそうなものなのだが、どういう訳かソイツにはまるで人形みたいに手足が生えてやがった。しかも動くし歩くし飛び跳ねるのだから正直ビビる。

　思わず誰かが遠隔魔法か何かで動かしてる代物かと思って持ち上げてみたが、特にそういう気配もないし……というかどうやって喋ってるんだコイツ。
　しかも友達がどうとか言うものだから、まさか他にもにんじんがいるのか！？…とか或いは他の野菜（大根とかカブとか何でか根菜系ばっかりが脳裏には浮かんだ）の仲間がいるのか！？…と思わず周囲を警戒しちまったとしてもそれは多分俺のせいじゃないと思う。俺は間違ってない。間違ってないはずだ。


　まあ、実際その後やってきたのは普通の（少なくとも見た目だけならどう見ても平々凡々な普通の）少年だったけどな。これで本当に野菜軍団が出てきてたら俺はダッシュで逃げたと思う。いや、ガチで。だってそうだろ、悪い王様倒す一気に参加したぞー…となった筈なのに『野菜（？）の群れに囲まれている…！』とか軽くホラーじゃねぇかまだ明るいのに。
　しかし俺のことを兄ちゃんならともかく姉ちゃんって……俺、女っぽいっけ？　胸とか無いぞ。思わず後から水辺で水面に映る自分の顔を凝視しちまったのはここだけの話だけどな。







　他にも、実は予想外にも旅の仲間が出来た。
　この庭園方面に行こうと決めたのもその仲間たちで、まあ俺は基本「あとから付いてくぜ」ってスタンスでいるしこれからも一応はそのつもりかな。とはいえ、必ずしもそれだけかというと……予定は未定って奴だ。未来はわかんねぇしな。俺も決断するべき時にはするとも。最も、それが今じゃないという事だけは確かだが。



　ともあれ、俺と一緒に（現時点で）先に進むことになったのは三名だ。


　一人目はミクネだな。
　俺にパーティ組もうぜと声をかけてきたのもこの娘っ子だ。元気が常に有り余ってる……という雰囲気を全身から醸しだしてやがる辺りは、何だか俺の妹を彷彿とさせる気がしないでもない。いや、俺の妹の場合は元気どころじゃねぇんだけどな…有り余りすぎて暴走してるし。今回の家出もそうだが……はぁ。
　目を離すと心配そうなのはどっちも一緒、とか言われたら強くは否定できねぇけど。

　そういやペット、というには随分と厳つい気配のする狼を連れ歩いてるんだがどういう関係なんだか。見てるとたまに、どっちが飼い主かわからんぞ…みたいな感じに見える。こう、狼にフォローされる娘……みたいな？　どうもこっちの発言とかも完全に理解してるっぽい所を見るとただの狼じゃあないんだろうが。何にせよ心強い仲間なのは確かだな。


　続く二人目がアルコル…だな。
　やたら黒尽くめな上に肌が色白だからか微妙に夜中に見たらビビる羽目になりそうな気がしないでもない女だ。結構真面目そうというか物静かそうな感じなんだが、会話してるとたまに斜め45度ぐらいに話の方向性がすっ飛んだりする辺りどうにも一筋縄じゃいかない感じではある。癖が強いというか、何というか……何なんだ、普通なの少ないのか。

　まあ、そうだよな。
　大人しく怯えてるような女は普通こんな戦争みたいなモンには参加しねーよなああそうだよわかってる俺が悪かった。


　んで、三人……人？
　……まあいいや、パーティメンバーの三人目になるのがステファニーだな。

　ぱっと見での印象は、色合いの悪いリボン付きの鶏もどき…って感じだな。いや、うん、人間じゃねぇんだわ。ガチで。……どうもコカトリス？かなにかっぽいらしいんだがどこまで正しいんだか。名前ぐらい聞いたことはあっても遭遇したことネェしさ、コカトリス。どんな感じなんだこんな感じなんだろうか、とマジマジ見て危うく蹴られかけた時はさすがに逃げた。
　名前とか口調とか声とか……あと、おしゃれのつもりか付けてるリボンからするとメスらしいんだが、正直俺には見分けがつかない。鶏のオスメスならまだしも、コカトリスの雌雄の区別なんてつかねぇんだからどうしようもないだろコレ。自己申請を信じるしか無いじゃねぇかよっていう……？　個性的さを言うならこのメンツの中でダントツかもな……。


　こんな感じで俺を含めて四人一組で行動って感じだな。他も大体そんな風に組んで動いているようではある。
　まあ、中には腕に自信があるのかそれ以外の理由があるのか知らねぇがソロで動いたり少人数で……って奴等もいるみたいだけどな。

　にしても何だ。
　一応、男一人女三人って組み合わせなわけだがどうにも……羨ましがられたりはしそうもないな、ってのが一番の印象かね。
　うぅ…先行きが心配だ。大丈夫か俺。

　書いた記録を見直しながら、ペンを片手に俺は淡く苦笑う。

　いや、なに。
　出だしからしてどうにも波瀾万丈な気配がヒシヒシしてくるもんだからついつい、な。

　と、お呼びがかかったようだ。向こうでミクネが「そろそろ出発ッスよー！」とかぴょんぴょこ飛び跳ねながら言ってやがる。休憩はこのへんで終了して城に向かって少しでも前進しろ……という事だろう。やれやれ、そうと決まったなら怒られる前にさっさと行くとしましょうかね。

　どうにも先は長そうだが何とかコイツ等と上手くやって行かねぇとな……なんて事を思いながら。
　俺は手帖をしまい込めば、ゆっくりと立ち上がった。

とりあえず挨拶の一つもしておくべきだろうか。
そんな考えから、メンバー一同へとひらりと青年は手を振って口を開いた。

……何やら一人思い悩んでいる様子で険しい顔である。