「霊香、雪枝とシエラ姉妹とともに一揆に参加してこい。場合によってはそのまま国を傾けても構わん」

その、言葉の意図するところ......





時は、城を出るその前まで。

ネクターは生命の支えだ。
それは、エンブリオが常に暮らしの友である、この世界で暮らしているがゆえかもしれない。
本当はなくたってなんとかやっていけるのかもしれない。
けれど、既に人々はエンブリオとともにいきている。
手の中にある知恵と便利さを手放すことは容易ではない。

『— —』
「......そうか、ありがとう」

王のおふれのなす意味も。
それがわたし達にどう及ぶかも、民がどう思うかも、考えるだけならわたしにもできる。
わたしが唯一契約しているエンブリオ、種の名をシェイドと呼ぶ精霊。
彼女が伝える屋敷の外、街の状況にわたしは心底深いため息をついた。

わたしは成人の儀を間近に控えてはいるが、世間的には領主の娘、ただの子供。
名前は殆ど力を持たない。

既にほかの領土によっては、王に従っているところもあるらしい。
私たちの父はまだ伝えられていないのか、発布していないのか、未だ領としての動きは決まっていないけれど……


わたしは、平穏であればいい。
他の領土がどうなっていようが、知らない振りを続けていたい。
なぜなら、今日は昼から妹の勉強を見る予定がある。わたしを純粋に慕ってくれるとても大切な妹。
それから、夜はおじじの話を聞くのだ。小間使いながら職人気質で、伝統工芸などを色々教えてくれる親父さん。
今日はさる東洋の薬になる草花の話であったはずだ。

今日に限らない。明日も明後日もその先も......
わたしの世界には、知りたい事と妹に教えたい事が山ほどあるのだ。

だから、この箱庭を私は気に入っている。
知る事だけに無防備に心を傾けられる今に......



(前日書きおいた日記が描かれたままで残っている。
　どうも、書いた主は傍らで寝入ってしまったようだ。
　　これでは続きは間に合うまい......)

実は姉が合成を担当するのが不安な雪枝なのでした。
主に爆発的な意味で。