「人がいっぱいだね……」
「うむ、流石の我輩も流石に緊張しているぞ」

明らかに緊張しているしろが居るおかげで少しは気持ちが楽になる。
きょろきょろと周りを見ながら受付を探す。とりあえず受付をしなきゃ。
それにしても……

「ねえしろ、ボク明らかに浮いてない？」
「ふむ、そのようなことは無いと思うが」
「でも、みんなボクのことを見ると可哀想な人を見るような目をしたあとそっぽ向いちゃうんだけど」
「なに、大方その背にある大きな鎌を見て驚いているのであろう。周りにはこれほど奇妙な輩が多いのだ。主だけが浮いているわけでもあるまい」
「うーん……どちらかと言うとボクの胸の当たりを見ているような……」

視線を落とすと、そこには“友だち募集中”と書かれた看板がある。
みんなこれを読んでいるはずなのに、未だに誰も話しかけてはくれない。
話しかけてくるどころか、目も合わせてくれない。

「もしかして、この看板のせいなんじゃ……」
「そのようなことあるまい。我輩は長い時間人間を見てきたが、みな優しい性格をしていたぞ。」
「しろって何歳なの」
「4ヶ月といったところか」
「……それってボクと契約した時じゃん」
「ふむ、そうであったか」

なんていうか、よくわからないけどもうしろの事は放おっておこう。

「あ……ボク、すごく大事なことに気が付いちゃったかも」
「なに？」
「ここにいる人たちって、いろいろな国や世界から来てるんだよね？」
「であるな」
「つまり……みんなこの文字が読めないんだよ」
「！？」
「盲点だったよ。こんなに人が集まるならたくさんの言語で書かないといけないじゃないか」
「おお、流石は我が主。よく気が付いたぞ」
「えーと、英語ではなんて書けばいいんだ……？友だちだからfliend、あれ？friendだっけ？」

ごそごそとカバンをあさってペンを取り出すと、ボクは頭を捻らせた。
ううん、そういえば学校じゃ他の国の言葉なんて習ってないし。
うーんうーんと唸っているボクを尻目に、周りは続々と一揆の旅へと出発しているようだった。
それでもボクには一揆よりも大切な友だちづくりがある。ここを疎かにするわけには行かないんだ。

「あ、おーい！きみきみー！」
「びくん」
「びくんって口でいう人初めて聞いたけど、君、一揆の参加者よね？」
「………………」
「あれ？おーい、聞こえてるー？」
「……きこえてます」
「はーい、それじゃあこっち来てねー」

突然声をかけられびっくりしちゃったボクは、赤髪のお姉さんに手を引かれるままいろいろ説明されていた。
でも、正直緊張しすぎて半分も内容が入ってこない。
そして、気が付いた時にはボクは大きな男と戦うことになっていた。

「突然すぎるよ……」
「おいボウズ、さっさと武器を出しやがれ」

そうだった。そりゃ一揆なんだから戦うんだった。
友だちができるとすっかり舞い上がっていたけど、正直戦うのはとてもめんどくさい。
ていうか、うまく友だちが出来ればそのまま一揆なんてやめてしまうつもりだった。
まさか試験があるなんて聞いてないよしろ。

「我輩も知らなかったからな」

心の声に反応しないでほしい。

「…………」
「なんだぁ？怖気づいたか？ま、そもそもこんな子どもが一揆に参加なんて言うのが無茶なんだよ、ったく」

めんどくさい、というのも本心だけど、戦いたくない一番の理由は別にあった。
でも、友だちをつくるためには避けては通れぬ道、ここで諦めるわけには行かないんだ。
ぐっ、と拳を握り締めると、しゅるしゅると鎌にまかれた包帯をほどいていく。
顔を出したのは鋭い刃、そして刃、刃。
ボクが使う鎌は柄や持ち手までがすべて鋭い刃になっている。
煌めくほど綺麗に磨かれた体は、驚くほどの切れ味を誇り、獲物を消して逃がすことはない。
誰が見ても文句をつけるところがないほど洗練されているはずだ。たぶん。うん。きっと。

「我の眠りを妨げるのは誰だ……」
「な、なんだぁ！？」

そして完全に姿をあらわす大鎌。響き渡る謎の声。

「フフフ、フハハハハハハハハハハハ！」
「かま、うるさい」

そう、この鎌は“喋りさえしなければ”文句の付け所がないんだ。

「やだもーご主人ったら！私だってかっこよく登場してみたっていいじゃな〜い！」
「かま、うるさい」
「それで敵はどこぉ〜ん？あら、もしかしてあそこの大男？いや〜ん♡なかなかいい体してるじゃな〜い♡♡」
「かま、うるさい」
「もう、私のことはかまじゃなくて、“か、ま、子”って呼んでっていっつも言ってるでしょ？あ、そこのいい男は、特別に“かまちゃん”って呼んでもいいわよ♡」
「お前女だったのかよ……」
「そうよ、私はおとめ、漢の女と書いておとめなの！かまだけに、オ ♡ カ ♡ マ、なんて〜！あら、ちょっとここ笑うところよ？」
「かま、頼むから黙って」

ぺちゃくちゃとしゃべり続ける大鎌。彼（彼女？）こそボクの武器である大鎌、名前はかまなのだ。
かまの話を聞き流し、構えをとる。めんどくさいからさっさと終わらせたいなぁ……

「いくよ、かま」
「あらあら、ご主人たらやる気じゃない？それじゃあ私も本気出しちゃうわよ〜♡」

走りだす。柄の刃がボクの手のひらに突き刺さるけど、もう慣れた痛みだった。

「おりゃああああああああああああああ♡♡どっせええええええええええええええええい♡♡♡♡」

振り下ろした一撃は、かまの叫び声と共にに大きな衝撃波となった——