１枚でわかる日記内容
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-------------------------------------------------------------------------------------------------------＊どくにんじんの習性＊
いつかすてきなひとを見つけ、その人に食べてもらうことを夢見ています。たいていのにんじんは一生のうちに“すてきなひと”に会えないまま地に還ります（エンブリオノームの住まう地に埋まり、彼らを汚染することが最近のフェイバリットです）。“すてきなひと”に会うことは並大抵のことではないため、彼らはたくさんの“すてきなひと”候補と出会うことであの人が特別なひとだったらなあと夢を見るのです。


森を出て初めて見た街はおっきくて、いろんな人がいて、その中でとてもとてもちっぽけなにんじんは困っていました。可愛い子が多すぎるのです。前を見ても左斜め後ろを見ても真上を見たって可愛い子が視界から消えることがありません。一揆パラダイス。もし彼ら全員に声をかけようとしたらにんじんの身体がいくつあっても足りないでしょう。

ぴょこんとトリーの肩から飛び降りて、にんじんは人の足の間を走りました。雑踏の中、誰もちっぽけなにんじんに気を遣わなくて、たくさんの足がにんじんの周りに落ちてきますが、にんじんは蹴られたり踏まれたりすることなくすいすい抜けていきます。仮にぐしゃぐしゃに踏み潰されたりしたって、にんじんには代わりはいるから問題ありません。
時折にんじんは立ち止まり、道行く人の顔を見定めた後にまた走っていきます。稀に気になる人がいて、話しかけ、そしてまた走ります。どうやら“すてきなひと”候補を探しているようです。あらゆる場所に“すてきなひと”がいるのににんじんの身体はひとつしかなくって息をつく暇すらありません。てんてこまいでした。
にんじんには代わりがいます、ならば話しかけることも分担できたらいいのですけれど、話しかけるにんじん、リサーチするにんじん、同じ日光を浴びるにんじん、にんじん畑のにんじん……にんじんは忙しいので仕方ありません。けれど、もしもにんじんが空を飛んで目線の高さを合わせることができたならばもっと話しかけるのは楽なのになあと思いました。

にんじんは歩いて歩いていつの間にか開けた場所に出ていました。空き地をぐるりと人だかりが囲み、その中心には金髪の少年とタックルおじさんが立っています。

とっても不機嫌そうな少年です。高貴な外見にツリ目がバッチグー。ににんじんは初めて彼を見たとき、踏まれたいなと思いました。手に持つ杖にしては短い棒状のそれは、なぜかにんじん心をくすぐります。少年はタックルするマンとなにやらおはなしをしていましたが、にんじんは胸の高まりでいっぱいいっぱいでなにも目につきませんでした。

にんじんは話しかけようと思い少年のもとへ走り出しました。しかしその瞬間、ばたんきゅう。無慈悲にも見物人に踏み潰されてしまいました。踏み潰され砕けたにんじんは断面からとろとろ溶けて地面に染みていきます。
最後ににんじんは思いました。

しかし

地獄のにんじん耳、非実在耳は死にかけになっても意中の人の声を拾います。
生命力、そう、にんじんはエンブリオ契約を結んでいたので宿主から生命力を吸うことができます。だからボロボロの体を結合して元通りにすることができるかもしれません。そして、そして、もしもエンブリオ契約を今の宿主以外の人とも結べたら…？　生命力をもらえるだけでなく、“すてきなひと”候補の懐に潜り込んで仲良くできます。一石二鳥、取らぬマッスルポテトのCP算用です。
にんじんは今一度、ヴィル君（名前は第六感で知りました）の目を思い出しました。あの冷ややかな瞳で睨まれたなら、見下されたなら、踏み潰されたなら………にんじんの薄い身体が熱くなります。

死の間際、考えるのは先ほど会ったばかりのヴィル君のことばかりです。それもそのはず、にんじんはちっぽけな体のつくりをしているので、たくさんのことをひとつの体に納めるのは苦手なのです。ヴィル君のことばかり考えてしまうのは道理にそったことと言えるでしょう。

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ENo1046ヴィルヘルム君をお借りしました。快くお貸しくださりありがとうございます！

突然話かけられた彼女は、すっとんきょうな声を上げる。
いきなり『僕はにんじん』と言われたらそうもなるだろう。
何やら宣伝を始めたにんじん（？）の話を一通り聞いて。

『持ち主』の命が無くては、『道具』は動けない。

[>少女は引いていた荷車から持ってきたタケノコを抱えたまま、ぼーっと突っ立っていた。
　……それから十秒ほどして、

いきなり脳内に声が響いた。

赤い物体・・・　にんじんの事を差しているようだ。

ふいに問いかけられたものの、商人の呼び込みかと振り返りもせず言い捨てる。が、

あまりの主張に思わず振り返り、声の主が毒々しいにんじんであることに気付いて固まった。

ふと聞こえた声に、クライカリオスは周囲をキョロキョロと見回し……
——…そして、あからさまに怪しい『にんじんらしき物体』を発見した。

無造作にひょいと抱え上げてみる。
思ったよりは重い。

無視すればよかったのだろう。
しかし持ち前の好奇心が本能的な警鐘をついつい聞き逃させてしまい……
結果、にんじんらしき物体に話しかけられるという珍事が発生した。してしまった。

正直扱いに困る。
そう言いかけた所で足音が聞こえ、クライカリオスは顔を上げた。
緑の髪の少年……嗚呼、コレがにんじん（？）の言っていた友達か、と目を細めひょいと手を上げてみせた。

トリー少年の発言へは、深い深いため息をひとつ。
ついでに一言にんじん（？）にもぼそりと返した。切実そうな声音で。