私がこの一揆に参加してからどのくらい経っただろうか。
魔物との戦いが主だったが、時には一揆参加者同士で練習試合という形で対峙することもあった。
振り返ってみると戦いに明け暮れていたな…

戦場から逃げ出した私が、また戦場に飛び込むなんて思いもしなかった。
私はこの一揆に関しては単なる一過性の乱闘イベントのようなもので、城を攻め落とし城主を説得して終わり…そう考えていた。どのような意図なのかは知れないがネクターを独占しようと目論んでいることで、実質民を苦しめていることは私自身も納得がいっていなかったしな。

しかし、事は私が予想していたよりもはるかに大ごとだったようだ。
兵士との戦いだけで済むかと思えば、なんと魔物まで出てくる。死者に襲われた、なんて話も耳にする。
正直、ここまでとは思わなかった。魔物たちの攻撃は日々熾烈さを増していき、練習試合をするという余裕はなかった。
仲間たちと出会わなかったら、私も今こうして日記を書ける状態ではなかったかもしれない。



そうだな…たまには真面目に、私の身の上話でもしよう。

私はメルンテーゼとは別の世界でなのだが、とある国の軍に所属していた。
魔法の心得があった私は、軍の中でも魔導士のみで結成された部隊の配属で、一個小隊を任され戦場に駆り出されていた。
まあ、良くも悪くもそれなりの実力はあったわけだ。
そう、私は戦場にいたのだ。元々いた世界では争いが絶えなかった。
どこかで新たな資源が見つかれば、その土地を巡り争う。領土拡大のために侵略を行うなんてことは当たり前のように起きていた。
上層部の命令は絶対だから、私はどんなに理不尽な命令であろうと従うしかなかったのだ。

だが、ある時…私は敵国の領地内で大けがをし、身動きができなくなり隊からはぐれてしまったことがあった。
…正しくは、部下達に私を捨て置けと言って国へ帰らせたのだが。
そんな状態の私を見つけ、介抱してくれた女性がいてな…
彼女に「そば」を振る舞ってもらったのだ。
あれは本当に美味かった…戦いに明け暮れ荒んでいた心が癒されるようだった。あの感覚は今でも忘れられない。

彼女の介抱もあって、私は回復し自国へ帰ることができた
しかし、非情なものでな。
上層部から、彼女が住んでいる地域、周辺一帯を焼き払え…という命が下った。
さすがに素直に従えなかった。
しかし、逆らえば処刑…せっかく生かしてもらったこの命をむげにしてしまうことになる。かといって従えば受けた恩をあだで返すことになる

悩みに悩んで、私は極秘でその地域に赴き、彼女だけでなく周辺の住民に「逃げろ」と伝えてまわった。
だが上はその行動はお見通しだったようだ。
情報をリークした私は反逆者とみなされ、かつて自分が率いていた部隊の者たちから追われることになった。
魔法力と魔法力がぶつかった反動で空間が歪み、私はそれに飲まれた。気が付いたらメルンテーゼにいた、というわけだ。

あの地域の住民が無事逃げられたのか、殺されてしまったのか、私にはわからない。彼女の生死も当然わからない。
無事であることを祈るばかりだが…。


私は、実質あの争いの絶えない世界から…戦場から逃げたようなものだ。意図せぬ空間歪曲で異世界に転送されたと言えば体はいいが…



だからかつての名は捨てた。名を変えて新たな生を歩むことにしたのだ。将軍家バルバーレという家柄など、この世界では何の意味もない。
しかし…メルンテーゼでもまた戦争だ。
どうすればいいのだ…争いから逃れられぬのが私の運命なのか？

……
少し考える時間がほしい。

ユーリィ氏には無責任に逃げるのかと罵られるかもしれない。
オロチ氏からは更なるダメ男のレッテルが貼られるだろう
ターヴィ……奴に関しては何も言うまい。

一度この一揆から離れ、自分の生がどうあるべきか見つめなおす時間がほしい。戦う理由がほしい。
何気なく参加したこの一揆、生半可な覚悟ではこの先いつかきっと…この命を散らすことになるだろう。

迷いが吹っ切れ、戦うべき理由が見つかった時、私は再び…仲間たちの歩みを支える大地、「慈地聖バルバーレ」として戦場に立つことを誓おう。