ああ　ああ　ああ　ああ　ああ　ああ

——————なんて酷い声、どうしたんだい？

痛い　痛い　痛い　痛い　痛い　痛い

——————それは大変、どうしてまたこんな事に？

あい　つら　がぁぁぁ　ぁいつら　があ　ぁぁぁぁ　

——————それは、それは、かわいそうに

殺　　　す　ちく　　　　しょ　怨　　　む　　許さ　　ぇぇ　　ど　　して　　ぁ　　ぐぁ　う　ぅ ぅ　　ぅ

　　く　そ　　なん　　　　で　憎　い　い　ぁ　　ぁ　憎　い　ぃ　ぃ　ぃ　いいい

——————うんうん、憎かろう、悔しかろう、怨んでも怨みきれないだろうねえ？

憎　　い　ぃぃ　憎　い　ぃ　憎い　憎い　憎い　憎い　憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

——————でも残念、君はその思いを晴らせず死ぬんだ、かわいそうに

ぇ　　　ぁ　　　嫌　だ　　いやだ　　

——————嫌だ？

　い　や　　だ　ああ　ぁぁ　しにた　く　なぃ　　よぉ　あ　ぁ　ぁ

——————助けて欲しい？

たず　げで　ぇぇぇぁ　ぁ　　じにだ　　ぐ　　な　　　　　　い
だ　ずげ　　　　　でええ　ぇ　ええ　　　　ぇえ　　　　　え

——————助かるなら、何だってする？何も要らない？

い゛ら゛　な　゛い　ぃぃぃ　なん　で　も　　すぅ　　ぅぅぁ
　た　　し　　げで　　ぅぅ　ぁぁあ　　いら　な　ぁ　ぁぁぁぁ

——————なら、契約だ、契約したなら私は君を助けよう

た　ずけて　　　　た　　　ぅ　け　　て　　た　づ　　け
　　　　たす　　　け　　　　　　　　　　　　　て　　ぐ

——————ほら、そこの内ポケット　その花びらを　早く

ぐ　　　　ぅ　　　　　ぎ　　　ぅぅ　う゛　ぐ

——————　・　・　・　・　・

　　　　　ぅ　　　　　　ぁ　　　　　　ぁ

——————・・・良いだろう　"狂骨"　"契約完了"だ




ぴしゃり　ぴしゃり　ぴしゃり

頭を叩く小さな衝撃に揺り起こされて、俺は目を覚ました。

鬱陶しく見上げると、どんよりとした空と水滴る釣瓶が見えた

———ああ　そうか

状況を把握し、そして自覚した。
狭い、暗い、水が冷たい。

干からびた記憶がじわりと蘇る、

俺は"連中"に囲まれて、刺された、斬られた

もんどり打って倒れると、ここぞとばかりに振り下ろされる槍頭

"連中"は泣き喚こうが血反吐を吐こうが構い無しに俺を痛めつけ、息絶え絶えの俺をこの"井戸"へぶち込んで行った。


ふと自嘲気味の笑いが出る、
あれだけの事をされてまだ生きているとは。

次いで、もくもくと感情が沸き上がってきた、

怒りが、怨みが、憎しみが、次々と沸いてきては俺を満たして行く、塗り潰して行く

許してはならない、決して許してはならない！

この俺を、あんな目に、こんな目に遭わせた"連中"を

晴らさなければ、今沸き上がるこの万感の思いを"連中"に味わわせなければ！


心中の勢いそのままに壁に手を付き立ち上がる

瞬間、はっとする。


お　か　し　い　

何かおかしい、得体の知れない何かを感じた、

何だ、これは　おかしいぞ　何かが　何かが

得も知れぬ恐怖に怯えながら手を見ると


そこには


白骨化した手があった


あれほど沸き上がっていたどす黒い感情が沈黙する、

これは　俺の　　手　　なのか　？


「君が」

後ろから声がする、

ゆらりと後ろを振り返ると、黒くてまぁるい光が俺を見ていた

「君が"望み"私が"用意"した"抜け道"だ、不満かね？」

なにがなんだかわからない

「て め ぇ ぇ が 俺 を こ ん な ん し た の か ぁ ぁ ？」

絞め殺される老婆のような声が井戸に響く、これは俺の声なのだろう

「不満があろうとなかろうと、"既に道は出来たのだ"」

「やり直しはもう利かない、"三度目の正直"なんて無いんだよ　"狂骨"」

名前を呼ばれた瞬間に、震える程の衝撃が頭に響いた、

殴られた訳では無い、言葉の衝撃が俺の頭を揺らしている

滲んでいた記憶が、最期の記憶がゆらゆらと立ち上がってくる


そうか




そうだ





お　れ　は　...




そ ぉ ぉ だ ぁ ぁ ぁ 俺は　生 き た か っ た ん だ ！

何を棄てても何をしてでも　生　き　た　か　っ　た　ん　だ　ぁ　ぁ　ぁ！！

生きて　生きて　生きて　生きて　生きて　生きて　生きて　

この思いを　この怨みを　晴らすために　ぃ　ぃ　俺　は　ぁ　ぁ　ぁ　ぁ　

「け　い　や　く」

「そう！」

嬉しそうに黒い丸は跳ねた

「私の力で君は生きていられる、君は何をしてでも生きていたい」

「私は"連中"を止めたい、君は"連中"を嬲り殺したい」

興奮する黒い丸を尻目に、薄気味悪い手足を伸ばして地の上へと這い上る

はやく　はやく　上がりたい　はやく　はやく　"連中"　で　血祭りを　！

「つまるところ我々は一心同体で、切っ先の向きも同じと言う訳だ」

「実に良い関係だと思わないかね？」

はやく　はやく　はやく　はやく

どうしようもない焦燥感が　ぎらぎらと輝く希望が　燃え上がる怒りが　次々と立ち昇る

はやく　はやく　はやく　はやく

「はやく！　はやく！　はやく！」

「ああ、早く行こう　早く殺ってしまおう」

はやく　はやく　はやく　はやく

例えようもない程の怨念が　表現出来ない程の喜びが　恨みが　辛みが

はやく　はやく　はやく　はやく

胸から溢れて、頚椎を辿り、頭骨に響いて抜けるたび

はやく　はやく　はやく　はやく




俺の体は　かたかた　と　音を　鳴らした