苦節の日々を過ごし、何とか否定の世界：アンジニティを脱出したリナとユリィ。
躍動の世界：セルフォリーフでひとしきり別れを惜しんだ後、元の世界へと帰る算段をどうつけようかとリナが考え始めたそのときだった。

リナの視界が、不意に揺らぎ…気がつけば、リナはまた見知らぬ場所に立っていた。

「…何なのよ、ここ…」



　新たに迷い込んだその世界は、通りがかったセルフォリーフ同様豊かな環境に恵まれた世界であった。しかし、決定的に違う点が一つ、存在した。
…それは、滅びへの漠然とした不安がもたらす、独特の緊張感。

道すがら出会う人々に話を聞いていくうちに、大体の状況はつかめた。

この世界はメルンテーゼといい、エンブリオという生命体と契約することで豊かな世界を築いてきたこと。
ところが、新たに即位した王がエンブリオとの契約に必要なネクターという花を独占し始めたことによって、社会が衰退に向かおうとしていること。
それに反発する住民が大規模な一揆を開始し、他の世界からの精鋭達の出動も要請していること。
リナは、その流れで偶然この世界に呼び出されたと思われること。

そして…ユリィ・ジョーンズという女性は、この世界には来ていないということ。

　おそらく、別行動になってから転移したためだろう。ユリィがアクシデントに巻き込まれなかったことに安堵しつつ、リナはこの次のことを考えた。

少なくともリナには、世界間を意図通りに渡る手段は無い。そういう手段を持つ人間との伝手を作らないことには、故郷に帰る事は出来ない。
他の世界からの精鋭の出動を要請する一揆の首謀者達は、恐らく世界間を意図通りに渡る何らかの手段を持っているだろう。
…それならば、とりあえず一揆に参加して彼らと近づいておいた方が、帰るめども立ちやすいのではないだろうか…と。
何よりリナにとっては、権力者の横暴により、世界が輝きを失っていくことは、到底許容出来ることではなかったのである。

リナは、一揆の首謀者達がいる場所へと、足を向けることにした。



　一揆の首謀者達がいる場所から見える王城は、あまりにも広大かつ自然に溶け込むように作られているため、まるで権力が所与であり自然の産物であるかと錯覚させるかのようだった。

「凄いわね…うちの国のお城もここまではやってないはずだけど」

一揆に加勢しにきたことを入り口にいた人間に告げると、その人物はやがて、奥からとある女性を連れてきた。

「初めまして、私はルリアンナ。この一揆を影でサポートする参謀！ルリでもアンナでも、好きに呼んでね。
一揆に加勢してくれるのよね？ありがとうっ！！」

姿を見せたのは、第一次産業に従事していることを思わせる出で立ちの、朗らかな女性である。
その女性は、リナのことを上から下までしっかり観察した後、

「あら、エンブリオとはもう結んでいるのね。だったらまぁ大丈夫だと思うけど・・・・・念のためっ
・・・ラルフ！ラールフー！！いまこっち来れるー？」

と、エンブリオとの契約を確認した後、別の人間に声をかけている。
………が、リナには、心当たりが無かった。

「エンブリオ？私、こっちの世界に来たばっかりで契約なんて…」



そう、鈴の鳴るような声が耳元で笑う。
…そして、リナの目の前に、着せ替え人形程の大きさで華奢な体躯をした、リナよりも純度の高い赤色の髪をした少女が現れた。
少女の背中には、オレンジ色がかった薄い羽根が羽ばたいている。

…それは、リナを加護していた精霊であるイーラとリナの、初めての対面となった。