苔生した石に腰を下ろし、未だ慣れぬ狭い視界を閉じる。
耳から入る音は喧しく騒々しい様々な声。
やがてそれも聞こえてにくくなり、無音となり———。



「賽さん？賽おじさーん？起きてー？」
若い女の声にゆっくりと目を開く、ぼやけた視界に映える赤い髪。
「……応、なんぞ用か？ルリ坊。」
「順番！順番だよー賽おじさん、そんなので大丈夫？」
赤髪の若い女、ルリアンナ。
現在一揆活動を煽動している主要人物の一人。
「たりめぇだ、喧嘩売っとんのか？」
ジロリと片目で睨むとルリアンナはわざとらしくぴょいと後ろに一つ飛び退いた。
「や、やだなー私はそういうの担当じゃないよー。」
刀を杖代わりにゆっくりと腰を上げる、本来ならばこんな使い方はしたくは無い。
「俺のこたァあんたら十分承知だろうが、こんな茶番に付きあわせおってからに……あれだ、か、かお……」
言葉が詰まる、思いどうりに口が回らない。
「顔パス？」
「あーそれだそれ、それで通せや。」
「やだなーそんなに変わってるのに顔パスで通れるわけないじゃん。」
「じゃかぁしいわ！」
からかう様に笑うルリアンナに思わず怒鳴る。
「こわーい、でもダメだよー今回は集まった人もたくさん居るし、前みたいな失敗は減らさなくちゃ。」
失敗———。
ズキリと左肩に痛みが走る。
「チッ　まぁええ、さっさと済ませや。」
「そうそう、まだまだたくさん集まってくれてるんだらね！ラルフー！ちょっとラルフー！何休んでるのー？」
ルリアンナがそう言うといささか疲労の色が見える大男、ラルフがこちらに歩いてくる。
「少しぐらい休ませろよ……っと、賽のおっさんじゃねぇか。」
「応、忙しそうだなぁラルフよぉ。」
「全くだ、このバカが何したか知らねぇけどこんな人数集めやがってよ……。
　しかしどうしたんだ賽のおっさん、療養中じゃなかったのかよ。」
乾いた笑いが漏れる。
「銭が尽きちまったもんでな、こんな身体じゃ今ぁ他にやれる事なんざねぇだろ？」
「だがなぁおっさん、俺らはあんたみてぇのを増やさねぇためにこんな……。」
眉を顰めて心配気に話すラルフからは同情の念が伝わってくる。
「構いやしねぇよ、”無駄な怪我人”を増やさねぇ為にやってんだろうが。
　さっさと試してもらおうじゃねぇか、俺がその”無駄な怪我人”になるかどうかってのをよ。」
自分自身への皮肉のように言ってやる。
それを聞いて諦めたのかラルフの顔つきが変わった様だ。
「しかたねぇな、俺に負けたら大人しくリハビリ生活に戻るんだなおっさん！」

杖代わりに地面に付いていた刀を鞘に収めたのまま構え直す———。