「彼はいうなれば嵐を呼ぶもの。そこに現れ、争いを起こし、死の種を心の臓に埋めてゆく」

「まだ命の灯が煌々と燃え上がっている人間に忍び寄り、陰を齎す」

「既に定まった死に向かい緩やかに下降してゆく魂を導くための存在である僕とは対極の存在といえる」

「具体的に何かをするわけじゃない。諍いが起きるのは彼の責任ではない。直接の原因でもない。
　ヒトの心の中にある欲求が顕現化した結果が、彼を『死神』に仕立てあげる」

「いずれ死を受け入れなければならない人間にとって、その為の理由が欲しいのだよ」

「僕たちはその装置だ」

「彼が現れたのなら此処にもこれから火の手が上がるだろう」

「そしてじきに——僕も呼ばれるだろうね」

長く艶やかな黒髪の少年は言葉とはおよそ不釣合いの微笑みを浮かべ

少し愛おしいものを見る目をして




消えた。

そこにそれはいる